あれ?
こんな時間に、彼女が通用口を出るのが見えた。
最近、彼女の勤務シフトをチェックしている俺は今日が夜勤なのを知っている。
ってことは・・・もしかして、また体調不良か?
俺は、ためらうことなく彼女に電話した。

『もしもし』
不機嫌そうな声。
「もしもし、どうした?」
『何がですか?』
「もしかして、また具合が悪いの?」
『いいえ』
「じゃあ」
『あの、先生は私を見張ってますか?そんなに気にしていただくような者ではありませんので、お気遣いなく』
ッたく、冷たいな。
「たまたま帰るのが見えたから」
『夜勤が中止になったんです』
「何で?」
『この前お休みした分を明日の勤務に出ることになって。代わりに夜勤を師長と変ったんです』
「へえ」
『先生は当直ですか?』
「いや、もう帰る。飯でも行くか?」
『いいえ、行きません』
相変わらず、あっさりしてる。
「おごるぞ。なんなら、娘さんも一緒に」
「え?」
驚いている。
「いいだろう?俺の方も話しておきたいことがあるし」
『でも・・・』
「駐車場で待っていて。とりあえず送るから。いい、動くなよ」
「・・・」
かわいくない彼女は、ハイとは言わなかった。
でも、きっと待っていてくれるはずだと確信があった。

彼女には話したいことがある。
伝えたい気持ちも、確認したいこともいくつかある。
でも、その前に結衣ちゃんのことを言うべきだろう。
大人として、保護者である彼女に黙っておくべきじゃないと思うから。
でも、本当は結衣ちゃんの口から言わせたい。
さあ、どうしたものかなあ。

白衣を脱ぎ、PHSを机に置き、ジャケットを羽織る。
幾分焦りながら、俺は駐車場へと向かった。