「私とルカは同じ。人形や仮面に取り憑いた、得体の知れない化物です。私達、お嬢様に体を解体されたり仮面を割られたりしたら……消えるのでしょうか?」
満月を見上げるアリアのグリーンの瞳が、キラリと光る。涙を浮かべることは決してない澄んだ瞳は、悲しみを叫べず辛そうでもあった。
「お嬢様は“回収”を避ける方法を探しているようですが……。彼女も立派な人形師、ドールに関しては絶対秘密主義ですからね」
「この屋敷は秘密だらけです。もしかしたら、あの辺を漁ったら、他の化物が出てくるかも」
部屋の隅に押しやられた古い道具の数々を指差し、アリアはルカを振り返る。
ほう……、とルカも口元に拳をあて、静かに笑った。
「それはあるかもしれませんね。ですが、これ以上お嬢様に近づく者を増やしたく無いので放っておきましょう。あの柔らかな肌や美しい足に、誰かの手が触れるなんて……考えただけでも虫唾が走ります」
「そういうところです。ルカの気持ち悪いところ」
無表情が執事を見る。無の中に、憐れみが一瞬だけ現れたように見えた。
ルカは肩を竦め苦笑すると、珍しくしおらしい口調で「私が……」と呟く。
「お嬢様への気持ちを言葉や形にする事で、昔のように彼女を傷付けたり苦しませてしまったら……。そう思うと、情けなくも躊躇してしまうのです。しかし、この身と共に堕ち朽ちてくれないか、と悪霊らしい願望が頭を過ぎることもある。矛盾していますね」
「ルカがお嬢様を傷付けた時は、私がルカを処分しますのでご心配なく」
「それはそれは。恐ろしい。ですが……ありがとうございます。頼もしい味方が出来て安心しました」
「味方?」
「えっ、違うんですか?」
「さあ……どうでしょう。私は人の機微に疎いので」
アッシュベリー家に住まう悪霊と秘密のドールは、静かに笑う。
満月を見上げ、ルカとアリアは長い夜を過ごすのだった――。