美しい色。あたたかい炎の色。

だが、“呪い”という恐ろしい言葉のせいで、地獄を焼く業火を思い出してしまい、フェリルは身震いする。

怯え顔のフェリルに気付いたルカは、穏やかに微笑んだ。


「デスマスクはご存知でしょう。中には、それが」


――デスマスクとは、死者の顔を石膏などで型に取ったもの。故人を偲ぶため、また、芸術性など様々なものが背景となり作られていたりする。十七世紀には、告別式に飾ったりと、ごく一般的に広まっていた。著名人のそれは博物館に展示されていることも。


「お父様は、誰かの死に顔を大事にしまっていた……の?」

「資料目的では? 旦那様は、研究熱心なお方でしたから、他にも色々集めていたようです」

「資料……。そっか……眠った表情のドールを作ろうとして……」

「ですが、お嬢様。デスマスクは死人の仮面。亡者の想いが宿っている可能性も、無きにしも非ず。それに、遠く東の国では、歌舞劇で使うためにわざわざ男の怨霊の仮面が作られるそうで。もしかしたら、巡り巡ってこの屋敷にもそういった類のものがあるかもしれない。悪霊に取り憑かれてしまったら困るでしょう?」


ルカは人差し指を立て唇にそっとあてた。

「だから……――ね?」と笑う顔が、庭で一緒に遊んでいた頃の少年と重なる。

フェリルの胸はそれだけで高鳴った。

庭の東屋でこっそりと“結婚式ごっこ”をした時と同じ。誰にも内緒。二人だけの秘密――シロツメクサの花冠と、誓いのキス。

ルカはもう忘れてしまった思い出かも。でもフェリルは、ずっと覚えている……。

仮面はとても興味深いけれど、脳内に甘く溶ける記憶には勝てなかった。

そっと頭を撫でるルカの手に酔うフェリル。

ルカは箱を本棚に戻した。

――フェリルでは決して届かない、一番上の段へ。