《Birthday》とは――人形に命が宿ること。
童話ピノッキオは、木の人形が女神から命を与えられ、良心をもち試練を乗り越えたことで、意思を持つ人形から本当の人間になれたという話。
アッシュベリー家最高の人形師・フェリルの祖父は、この童話に出てくる女神に似た能力をもっていた。
精巧に造られたドールにかりそめの魂。
だがそれは、祖父自らの意思で与えられる訳ではなかった。また、全てのドールが命を手にするとも限らない。どのように意思が生まれるのか、童話のようにやがて本物の人間に成り得るのか。
まだ誰にも解らない。
ゆえに、彼は決めた。
そんなドールを世に置いておけない。何か起こってからでは遅い。
壊してしまえば、宿ったものも消えるはずだ。回収しなければ――と。
「実際お店で会ってみたい。修理で済むか“回収”か……。あの子はお祖父様の後期の作品……。もし《Birthday》なら、これまでのドールに比べて、生まれるタイミングが早すぎる。初めてのケースだもの」
「それですが」
ルカは小さく咳払いをしてから言った。
「お嬢様が行く必要は無いかと」
「えっ、なんで⁉」
「件のミスターは、最近あのドレスショップを継いだ二代目です。No.633にもさほど詳しくないはず」
「うん? それの何がダメなの?」
「彼は、適当な嘘をついて人形師を呼び出し――つまり、お嬢様にお会いしたいだけだと思います」