私たちは、晴れた日はご神木様の木の根元に座り込み。雨の日には境内の階段に腰かけ、飽きることなく話しをしていた。
 十月が過ぎた頃、天候はアップダウンの激しい様相を呈していた。とても晴れて、まるで夏日のような暑い日があるかと思えば。台風が発生して、雨風の強い荒れた日もあった。
 さすがに台風の日に会うことはなかったけれど、台風一過になれば意気揚々と私の足は神社へ向いた。「また明日」そう言ってくれる、神木さんの言葉に惹かれるように私は神社へ足を向けるんだ。
「昨日は、大丈夫でしたか?」
 台風の心配をしてくれる神木さんに、平気、平気と軽口を叩く。
 実際、直接日本に上陸していない台風だったから、風と雨が少しばかり強いくらいで被害と呼べるのは、家の前や庭に散乱した小枝やゴミを片付ける程度だった。
「神木さんのところは平気だった?」
「はい。大丈夫です」
 ニコリと笑みを見せた後、空咳をする。
「そっちは、平気?」
 実は、以前から出ている咳が、少しずつではあるけれどひどくなっているように思えていた。
「病院、行った? お薬貰って飲んだ方がいいよ」
「ありがとうございます。紗耶香さんは優しいですね」
「そんなことは……、このくらいは普通だよ」
 神木さんは、私の言動を何かと褒めてくれるものだから、つい嬉しくなりそれが表情に出てしまう。
「笑顔も素敵です」
「もう。ホント、褒め上手だよね」
 声を上げて笑うと、見守るような穏やかな表情を向けられて、私の中ではあの音が鳴ってしまうんだ。
 神木さんとずっと一緒いられたら、どんなに幸せだろう。一緒に遊びに出かけるわけでも、食事をしに行くわけでもない。眠れない夜に長電話をするでもなく、メッセージのやり取りをするでもない。彼がスマホをいじっている姿を一度も見たことがないから、そういうものに固執していないのだろうし。どこかへ行きたいという話で盛り上がることもない。だけど、神木さんとはそれでいいような気がしてしまうから不思議だ。
 私たちは必ずここで逢い、話をしている。約束なんかしなくても、必ず会えるという安心感があった。
 この関係をなんと呼べばいいのか。少しばかり悩んだこともあったけれど、もしも恋人同士という形に収まった時、いずれ迎えるのは別れだろう。それを考えると、私は怖くてたまらなかった。
 神木さんのことを想うこの気持ちは、きっと恋だ。私はたまらなく彼を好きになっている。だからこそ、今以上の関係を望むことを躊躇ってしまう。元カレのように、神木さんを失ってしまうことが怖いんだ。
 ただ一緒にいたい。このままずっと、変わらず一緒にいたい。
 他愛もない話をして、一緒に空を見上げて、ここの空気をめいっぱい吸って。大丈夫ですよ、素敵ですよ、という神木さんの言葉を素直に受け入れて。そして、時々。そう、本当に時々。お水を渡す時に手が触れて。慰められるときに髪に触れられ。元気を出してくださいと背を撫でられ。境内に腰かけるときに置いた手に彼の手が触れて。たったそれだけのことが嬉しくて、子供みたいに喜んで。
 だけど、変わらないものなんて、この世にはないんだ……。