それから毎日のように、私と神木さんはこの小さな神社で逢い、他愛もない話をした。と言っても、話すのはいつも私ばかりで、聞き上手の神木さんは、どうしようもなくくだらない話でさえ、飽きた顔一つせず聞いてくれるのだ。
 以前スポーツドリンクを渡した時、結局彼は私の前で飲むことがなくて。もしかしたら、苦手なのかもしれないと思い。それからは、無難に水を買っていくことにしていた。神木さんに水を差し出すと、嬉しそうにキャップを開けて喉を鳴らす。それを見てほっとした。
「お水は、美味しいですね」
 ふぅっと息を吐き、空を仰ぐ。私も倣って空を仰ぐ。
 神木さんの仕種は、私の周囲にいるどの人とも違っていて。けれど、その違いをどう説明したらいいのか解らないのだけれど、見ているだけでほっとするというか、癒されるのだ。こんな人に出会ったことはないし、きっとこの先もないだろう。そう考えると、この縁がずっと続けばいいのにと思う。
 お祖母ちゃんは、人と人との縁は不思議で、とても大事なことだと話していたことがあった。どんな人と出会い、どんな人のそばにいるかで、自分の周りにある景色は、明るくも暗くもなると。神木さんのそばにいると、私の景色はきっとずっと日の当たる明るい景色の中にいられる。そんな気がした。それが、どんな形であったとしても。
「紗耶香さん、手を貸してください」
 空を見上げていた神木さんに言われ手を差し出すと、優しく握り万歳するように持ち上げられた。
「こうやって手を広げると、自然の空気が体の中に浸透してくるような気がしませんか」
 神木さんは目を閉じ、私の手を握ったまま両手を上げている。私も同じように、もう片方の手も上げた。そうして、ここにある自然の力を吸収するようにゆっくりと深く呼吸を繰り返した。
 何度かそうした後、ふぅっと息を吐き。繋がっていた手が離れる。
「今日もいい陽気ですね」
 隣の私の目を見て笑う表情がたまらなくて、私は大きく頷いた。