変な声出た。今、何とおっしゃいました? 聞き間違いだったら恥ずかしいんですが、妻とかなんとか……
「えっと……」
「精霊界というところに、この世界の季節を司る『節王』というのがいてね、僕はその中の『春王』の後継者なんだ。次期王となるための修行と妃探しを兼ねてこの世界に来ているんだよ」
「……」
戸惑う私の気持ちを置き去りにして、梅咲くんが熱っぽく前のめりにファンタジーな説明をしだした。
「精霊界と人間界とのつながりを保つために、王の後継時期に合わせて特別な魂がこの世に生まれる。その魂を授かった者には、夫となる者の真の姿が見えるんだ」
「え、それが私ってこと?」
「そうなるね。僕の角が見えるのは、妻となるその一人だけだから」
私は、さっきの光景を見た時、梅咲君がそういう感じの人なんじゃないかって、少し予想というか予感のようなものはあった、と思う。だってどう考えても高貴すぎたし。けど!
妻とか妃とか、そういうのは全然考えていなかった!
でもよく考えてみたら、なんで私だけにしか見えないのかなんて理由は、ファンタジー小説とかの世界では、生贄だからとか、そうじゃなきゃお妃様、そんな感じで相場が決まっているような気もする。
今までそこに思い至らなかったのが不思議なくらいにベタな理由だ。
「それに……」
梅咲君が言葉を詰まらせると、節王、のくだりで鎮まりかけていた角の花が、またポンポンと咲きだした。
「僕、ずっと前から小松さんを……その、好きで」
「え? 嘘なんで!?」
普通に聞いているようでいて、私は今、超絶テンパっている。人間じゃないのはずっと予感がしていたし、高貴なお方だっていうのも想定内。だけど、それをポンポンと説明されて、妻になる人だとか言われて、その上、その上。
梅咲君が私を好き? それはさすがに都合よすぎでは? 芸能人でもない私にこんな大掛かりなドッキリを仕掛けるメリットなんかないと思うけれど、どこかにカメラがあって、数年かけてドッキリのドキュメンタリーでも撮っているんじゃないかとまで思ってしまう。
「最初は僕の勘違いだったんだよ。小学生の時、「春が好き」って小松さんが言っているのを聞いてしまって」
「ああ、あはは、よく言っているもんね、私」
「そう、でも僕は『春』だから」
「なるほど、確かにね」
「でもそれで小松さんを意識してしまって、そしたら」
「そしたら?」
確かに「春が好き」は私の口癖のようなものだ。梅咲君の名前として意識はしていなかったけれど、言われたほうはそう思うかもしれない。
「本当に春、あ、季節のほうね。春を愛して、季節を楽しんでいるんだなって思って」
「うん。春って、いいよね」
「小松さんが僕のことを言っているわけじゃないのは百も承知なんだけど、その、小松さんが好きって言ってる春も、そもそも僕なんだよ」
「あー……春を司る、春王」
「まあ正確には今は父上なんだけどね」
「うん」
「人間でいう血族っていうのかな、僕たち精霊界ではそれを気族といってね。要は僕には春の気が流れているから、例えば小松さんが春を好きっていう気持ちをチューリップが受けると、それは僕にも届くんだ」
「え、じゃあ私、毎日のように梅咲君に告ってるみたいな感じになってたってこと?」
「……うん、そんな感じ。しかもこう……脳に直接来る感じっていうか」
それって耳元で囁くよりも近くでってことじゃない? 私、無自覚にものすごい恥ずかしいことしてたんじゃ……? 梅咲君も真っ赤な顔だけじゃなくて、満開なのにまだまだ咲き続ける角で分かりすぎるくらいに照れている。
「でもそれだと、私、梅咲君のお父様にも告ってることにならない?」
「だから、前提がね。僕が小松さんを意識しちゃってたからなんだよ。世界中の春好き人間の想いをいちいちダイレクトに受けたりはしないんだ」
「ああ、そっか」
「って、もう僕いい加減に恥ずかしいこと喋りすぎじゃない? ……小松さんは、その、迷惑じゃ……ないかな?」
あ……
そうだ。私、告白されているところだった。しかも、結婚前提のやつ。テンパりすぎて、すっかり他人事というか映画でも見ている気分で聞いていたのだ。