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 ハルが消えて一年が過ぎた。高校生活も徐々に慣れ、クリスマスが過ぎても、お正月が過ぎてもハルが現れないので、もしかしたら本当に夢だったのかもしれないと思うようになってきた。

 けれど、望みは捨てていない。だって、あるのだ。ひとつだけ。

「朋香!」
「真央、おはよう」

 真央のスマホアクセの中には、あの指輪がある。真央は翔太に貰ったと言っているし、田村君も俺があげたと言っている。けれど、あの指輪は紛れもなくハルが具現化したもの。

 私の指輪がなくて、真央のだけあるのはなぜか考えた。きっと、私の指輪はハルの気で出来ていて、ハルが言っていたようにあれはハルの命を削って作ったものだからだと思っている。

 真央のは人間界にある、真央の家のケヤキの命だから、きっと消えていないのだと。それを証拠に、建築科に行って頑張っている田村君は、木の扱いが上手いと評判なのだ。きっと加護はちゃんと田村君にもついたままのはず。

 だからハル、私、待っているんだよ。早く戻ってきて……!

「ねえ朋香ぁ。試験終わったらさ、春休み入る前にディズパーク行かない? 四人で」
「えー、田村君と二人で行きなよ、私お邪魔で……四人?」
「うん、四人で」
「真央と、田村君、で、私。他に誰?」
「ちょっ、朋香、勉強しすぎで疲れてる? 自分の旦那、しかもあの超ハイスペ王子を忘れるってどんだけよ」

 !

 今、なんて? 超ハイスペ王子って言った?

 それって……

「キャー!」
「宇目崎君やっぱり今日もカッコイイ」
「同じ人間と思えないよね、オーラ出てるよ」
「才色兼備、文武両道、おまけに富貴栄華、その上、彼女に一途とか、理想の塊すぎる」

 急に、廊下が騒がしくなった。女子たちの悲鳴のような声の中に、うめさき、という言葉を聞いたような気がして、振り返る。

「毎朝騒がしいよね。朋香も大変だね、あんな旦那を持ってさ」
「嘘……本当に……?」

 女子たちの騒ぐ声の響く廊下から教室のドアをくぐってやってきたのは、紛れもなくハルだった。私はいてもたってもいられずに駆け寄る。

「なんで? どうして?」
「おはよう。お姫様。今日はすごく積極的だね?」
「バカ! 今までなにしてたの! 待ってたんだからね!」
「(待たせてごめん。新しい『門』は最初は開花時期じゃないと開かないんだ)」

 耳元で、小さな声でハルが囁いた。一回り大きくなった満開の角から、優しい春の香りが漂って、私は懐かしいその香りに包まれた。