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 夏休みが終わり、慌ただしく勉強ばかりの日々が続く中、推薦組の進学もちらほら決まり、当然のことだがハルは私より一足先にM高への進学が決まった。

「やっぱ王子は推薦かぁ。そうだよねぇ。出来の悪いヨメと違って、永年トップだもんねぇ」
「真央! これでも私頑張ってるんだからね」
「俺も推薦決まってるんだぞ」
「翔太は高専の建築科でしょ、材料の加護で実技クリアしただけじゃん」
「ケヤキは俺の友達だからな! わはは」
「冬休みも教えてあげるから、二人とも一緒にがんばろう」
「うん、ありがとう」

 残るは真央と私だ。冬休みが終わったら、きっとあっという間だ。



 冬休みにはいってすぐ、嫌な夢を見た。ハルが「必ず戻るから」と言って消えてしまう夢。クリスマス目前なのに、縁起でもない。なんだかやけにリアルで、私は起きがけのベッドの上でハルにILNEしようとした。

「え? あれ?」

 ないのだ。どこをどう探しても、ハルとの履歴がなく、メンバーリストにもハルの名前がない。一体どういうこと?

「うそ……なんか、間違って消しちゃった?」

 とりあえず、真央にハルのID教えてもらおう。

『おはよ、ハルのILNEID教えてもらえないかな? 間違って消しちゃったぽくて』
既読・6:07

よかった、起きてたみたい。

『おは。ハルって誰だっけ? ごめんわかんないからIDも知らないや』

 え?

 誰って? ハルだよ? なんでわかんないの? 頭の中が疑問符で溢れかえり、焦燥感で体がカーっと熱くなる。

『ハルだよ、梅咲春。いつも田村君と四人で遊んでたでしょ? 冬休みも勉強教えてくれるって学年トップの王子様だよ?』
 既読・6:09

 これだけ書けば寝ぼけ真央でもわかるはず。そう思った。

『ごめん……全然わかんないや。トップってことはA組だよね? ウチにそんな名前の子いなくない? てか男? 女?』

 嘘でしょ……

 真央が、ハルを知らない? 火がつきそうなくらいに耳の奥が熱い。心臓が、血管が、煮えて固まってしまいそう。次の質問が浮かばない。ええと、なんて言えば思い出してもらえる? そもそも、なんで忘れているのだろう。私たちは三年になってから、毎日一緒にいたっていうのに。

 そうだ写真! 画像見せれば! そう思い立って、わたしは急いで画像フォルダを開いた。けれど、そこには私を更に混乱させ、奈落の底へ突き落すような結果が待っていた。

「ない……ない。ハルの写真がない」

 一緒に撮った写真も私しか映っていないのだ。どう考えても私が間違って消したなんてことはない。ハルの存在自体が、まるで最初からなかったように綺麗に消えている。

『翔太にもきいてみたけどやっぱわかんないって。ごめんね、今日は翔太とデートだからリプ返遅れるかもだけど、また何かあったら声掛けて~』

 真央からだった。田村君まで知らないとなると、やっぱりそういうことなんだ……

 でもなんで? ふと指に目をやると、ハルの気で出来た指輪もなかった。何もかも、リセットされてしまっている。

 とにかく、ここで考えていても仕方ない。空虚な手を強く握りしめ、精霊界へ行ってみようと出かける準備にとりかかった。