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婚礼の儀式を終えたあと、私たちはすぐに真央たちのもとへと戻った。あんなことをしてしまった直後で二人のところに戻るのは恥ずかしかったけれど、いきなり出て行ったことを真央に散々言われてそんな気持ちはすぐにどこかへ吹き飛んだ。ケヤキの加護にまつわる一大事を説明して、真央たちはなんとか納得してくれたようだった。
「ケヤキさんは俺のこと嫌いなのかなぁ」
「そういうことじゃなくて、たぶん真央を大切にしすぎて、暴走してるんだと思うよ」
「そうだね。僕たち精霊は神じゃないから、事故そのものをなくすことは出来ないんだ。けれど加護があれば、クッションのように跳ね返す現象は起こせることが多い」
「それでも充分すげぇよ」
田村君が興味津々で梅咲君の話を聞いている。
「だけど今回みたいに跳ね返したことで別の人を危険な目に遭わせてしまうこともある」
「ねえ待って。じゃあさ、私って今回、翔太に庇ってもらわなくても助かったってこと?」
「それは純粋に田村君グッジョブだと思うよ」
「うん。樹木の加護程度だと死亡事故が骨折で済んだくらいにはなるけど、完全には回避できないと思う」
「そっかぁ。やっぱ翔太ありがと!」
「へへへ、って、痛てえってば」
「あっ、ごめん!」
真央が田村君に抱きつくと、田村君が冗談交じりに身を捩った。軽いとはいえ全身打撲なのだ。ああやって笑っているけれど、もしかしたら結構痛むのかもしれない。優しいんだな。
「今晩は様子見だけど、明日には退院できるから」
「じゃあ明朝、高田さんのお家に集合でいいかな」
「わかった。翔太、ご両親にもよろしくね。改めてお礼行くから」
「そんなんいーのに。こまけえこと気にすんなよ」
「よくないし細かくないよ! 助けてもらったんだから」
恋人とはいえ、人を庇って轢かれそうになるなんて、誰にでもできることじゃない。そんなすごいことを「そんなんいーのに」とか「こまけえこと」なんて言える田村君、真央はバカバカ言うけど本当にいい男だと思う。軽口たたいていても付き合っているんだから、きっと真央だってそういうところをわかっているんだろうな。
「ほんと仲いいよね、真央と田村君て」
「そちらには負けますわよ? もう夫婦ですものねぇ」
「もう、真央!」
気がつけば、もう夜だった。陽が高い時期でも、七時ともなれば外も暗くなってくる。
「梅咲君、体は平気?」
「ん? ああ、儀式を済ませたからもう大丈夫だよ」
「あそっか」
「二人とも送ってくよ」
「ありがとう……って、何?」
儀式の効力をすっかり忘れて梅咲君の時間切れを心配した私を、真央がニヤついた笑みを浮かべて眺めているのに気がついた。
「儀式って、どんなことしたのぉ?」
「へ、変な想像しないでよ!」
「へー、変な想像するようなことしたんだぁ、ずいぶん戻るの遅かったもんねぇ」
真央のハートマーク攻撃が容赦なく私の記憶を呼び起こす。すぐに戻ったなんて言ったけど、実際は何度もキスされて、数分のはずの儀式なのに相当な時間が経ってしまっていたのだ。ふにゃふにゃになってしまった私を離してくれない梅咲君が悪い!
「やだもうっ! 梅咲君、助けて」
「そういえば、二人ともその梅咲君と小松さん、夫婦になっても続けるつもり?」
ニコニコ笑っているだけの梅咲君には頼れないと弱り切ったタイミングで、真央が話題を替えてくれた。しかもその話! ナイス真央!
「そうか、言われてみればそうだよね。小松さん、朋香って呼んでもいい?」
「う、うん。もちろん! じゃあ私も、ハルって、呼んでいいかな?」
「もちろん。高田さん、ありがとう」
「いえいえ~。私、お邪魔かしらヲホホホ」
「真央ーっ!」
火照る頬を両手で押さえながら、私たちは病院を後にした。
婚礼の儀式を終えたあと、私たちはすぐに真央たちのもとへと戻った。あんなことをしてしまった直後で二人のところに戻るのは恥ずかしかったけれど、いきなり出て行ったことを真央に散々言われてそんな気持ちはすぐにどこかへ吹き飛んだ。ケヤキの加護にまつわる一大事を説明して、真央たちはなんとか納得してくれたようだった。
「ケヤキさんは俺のこと嫌いなのかなぁ」
「そういうことじゃなくて、たぶん真央を大切にしすぎて、暴走してるんだと思うよ」
「そうだね。僕たち精霊は神じゃないから、事故そのものをなくすことは出来ないんだ。けれど加護があれば、クッションのように跳ね返す現象は起こせることが多い」
「それでも充分すげぇよ」
田村君が興味津々で梅咲君の話を聞いている。
「だけど今回みたいに跳ね返したことで別の人を危険な目に遭わせてしまうこともある」
「ねえ待って。じゃあさ、私って今回、翔太に庇ってもらわなくても助かったってこと?」
「それは純粋に田村君グッジョブだと思うよ」
「うん。樹木の加護程度だと死亡事故が骨折で済んだくらいにはなるけど、完全には回避できないと思う」
「そっかぁ。やっぱ翔太ありがと!」
「へへへ、って、痛てえってば」
「あっ、ごめん!」
真央が田村君に抱きつくと、田村君が冗談交じりに身を捩った。軽いとはいえ全身打撲なのだ。ああやって笑っているけれど、もしかしたら結構痛むのかもしれない。優しいんだな。
「今晩は様子見だけど、明日には退院できるから」
「じゃあ明朝、高田さんのお家に集合でいいかな」
「わかった。翔太、ご両親にもよろしくね。改めてお礼行くから」
「そんなんいーのに。こまけえこと気にすんなよ」
「よくないし細かくないよ! 助けてもらったんだから」
恋人とはいえ、人を庇って轢かれそうになるなんて、誰にでもできることじゃない。そんなすごいことを「そんなんいーのに」とか「こまけえこと」なんて言える田村君、真央はバカバカ言うけど本当にいい男だと思う。軽口たたいていても付き合っているんだから、きっと真央だってそういうところをわかっているんだろうな。
「ほんと仲いいよね、真央と田村君て」
「そちらには負けますわよ? もう夫婦ですものねぇ」
「もう、真央!」
気がつけば、もう夜だった。陽が高い時期でも、七時ともなれば外も暗くなってくる。
「梅咲君、体は平気?」
「ん? ああ、儀式を済ませたからもう大丈夫だよ」
「あそっか」
「二人とも送ってくよ」
「ありがとう……って、何?」
儀式の効力をすっかり忘れて梅咲君の時間切れを心配した私を、真央がニヤついた笑みを浮かべて眺めているのに気がついた。
「儀式って、どんなことしたのぉ?」
「へ、変な想像しないでよ!」
「へー、変な想像するようなことしたんだぁ、ずいぶん戻るの遅かったもんねぇ」
真央のハートマーク攻撃が容赦なく私の記憶を呼び起こす。すぐに戻ったなんて言ったけど、実際は何度もキスされて、数分のはずの儀式なのに相当な時間が経ってしまっていたのだ。ふにゃふにゃになってしまった私を離してくれない梅咲君が悪い!
「やだもうっ! 梅咲君、助けて」
「そういえば、二人ともその梅咲君と小松さん、夫婦になっても続けるつもり?」
ニコニコ笑っているだけの梅咲君には頼れないと弱り切ったタイミングで、真央が話題を替えてくれた。しかもその話! ナイス真央!
「そうか、言われてみればそうだよね。小松さん、朋香って呼んでもいい?」
「う、うん。もちろん! じゃあ私も、ハルって、呼んでいいかな?」
「もちろん。高田さん、ありがとう」
「いえいえ~。私、お邪魔かしらヲホホホ」
「真央ーっ!」
火照る頬を両手で押さえながら、私たちは病院を後にした。