*
「お」
「あ! そうだ、朋香ごめんっ! なんともなかったって報告忘れてた!」
さっきまで救急の集中治療室にいたと聞いて、私たちは急いで受付で教えてもらった個室に向かった。ところが、そこにいたのはベッドに腰掛けて談話する元気そうな田村君と真央だった。
沈みかけの夕日によって窓の外はオレンジ色に染まり、味気ないはずの白い病室も光と影のコントラストがとても美しい。それはまるで青春恋愛映画のワンシーンのようで、一瞬、声をかけるのを躊躇った。
「無事だったんだね、よかったよ」
「え? 本当に大丈夫? はぁーホッとしたぁ」
事故に遭って無事だったというより、最初からなにもなかったような様子で、張り詰めていた気持ちが一気に緩んだ。
「あのね、最初は私も焦ってて。翔太が私を庇って……」
「でも車には当たってないんだよ! ギリセーフ! 衝撃でちょっと打ち身とか軽く頭ぶつけたくらい? 検査してもどこも悪くないってさ。俺って頑丈!」
「そっかぁ……よかったぁ。いきなりILNEで『翔太が車にはねられて今病院』とか来たからもうビックリしたよ」
「…………」
和やかな雰囲気で真央たちから事故のことを聞いた。乗用車が二人に向かって走ってきて、田村君が真央を突き飛ばして庇い、その勢いで地面と接触。田村君は全身を打って一時的に気絶してしまったようだ。
すごいスピードで、正面から来て危ないと思ったけれど体を動かす時間はなかった、避けることが出来たのは田村君の高い瞬発力のおかげだと興奮気味に熱く語ってくれた。好きな人に命懸けで守ってもらえたのだから、テンションもあがるというものだ。
「でも本当によかったよね、梅咲君。……梅咲君?」
「ん、ああ。そうだね」
「どうしたの? なんかさっきから恐い顔してるよ?」
「あれが見える?」
「あ……」
梅咲君は、笑いに溢れる空間でただひとり、一点を睨みつけるようにしていた。すっと手を握られてドキリとしたが、その瞬間、寒気のような気配と空気が薄まって呼吸が辛くなるような胸の重さを感じた。梅咲君の視線の先に目をやると、真央の指輪をしている手の周囲に、カビのような薄暗いモヤがたちこめているのに気がついた。
「あれって……なにか悪い感じがする」
「うん。実は……精霊の力を具現化すると、その力が強まるんだ。良い気だったから安心していたけど、これも気の乱れの影響かもしれない」
「そんな……元のオーロラみたいなのには戻せないの?」
「一度壊して、それを精霊に還元してやらないといけないんだ。だけどそれには節王の力がいる」
梅咲君が、責任を感じているのか額に汗をかいている。節王の力、それって結婚したら使えるようになるって言ってた!
「じゃあ今すぐに結婚しようよ!」
「朋香? 急にどうしたの?」
「俺らラブラブだからテンション上がっちゃったとか?」
「そうじゃないんだけど、急がなきゃなの!」
私が大きな声を出したものだから、真央と田村君がびっくりしている。
「小松さん、いいの?」
「うん!」
梅咲君も目を丸くしているけれど、真剣な表情でまっすぐに私を見てくれた。これはGOだ。
「真央、待ってて、必ず助けるから!」
「え? 何が?」
「ごめんね高田さん、あとでちゃんと説明するから!」
「ちょ、二人ともどうしちゃったの!?」
背中に真央の呼びかける声を残して、私たちはまた学校へと急いだ。
「お」
「あ! そうだ、朋香ごめんっ! なんともなかったって報告忘れてた!」
さっきまで救急の集中治療室にいたと聞いて、私たちは急いで受付で教えてもらった個室に向かった。ところが、そこにいたのはベッドに腰掛けて談話する元気そうな田村君と真央だった。
沈みかけの夕日によって窓の外はオレンジ色に染まり、味気ないはずの白い病室も光と影のコントラストがとても美しい。それはまるで青春恋愛映画のワンシーンのようで、一瞬、声をかけるのを躊躇った。
「無事だったんだね、よかったよ」
「え? 本当に大丈夫? はぁーホッとしたぁ」
事故に遭って無事だったというより、最初からなにもなかったような様子で、張り詰めていた気持ちが一気に緩んだ。
「あのね、最初は私も焦ってて。翔太が私を庇って……」
「でも車には当たってないんだよ! ギリセーフ! 衝撃でちょっと打ち身とか軽く頭ぶつけたくらい? 検査してもどこも悪くないってさ。俺って頑丈!」
「そっかぁ……よかったぁ。いきなりILNEで『翔太が車にはねられて今病院』とか来たからもうビックリしたよ」
「…………」
和やかな雰囲気で真央たちから事故のことを聞いた。乗用車が二人に向かって走ってきて、田村君が真央を突き飛ばして庇い、その勢いで地面と接触。田村君は全身を打って一時的に気絶してしまったようだ。
すごいスピードで、正面から来て危ないと思ったけれど体を動かす時間はなかった、避けることが出来たのは田村君の高い瞬発力のおかげだと興奮気味に熱く語ってくれた。好きな人に命懸けで守ってもらえたのだから、テンションもあがるというものだ。
「でも本当によかったよね、梅咲君。……梅咲君?」
「ん、ああ。そうだね」
「どうしたの? なんかさっきから恐い顔してるよ?」
「あれが見える?」
「あ……」
梅咲君は、笑いに溢れる空間でただひとり、一点を睨みつけるようにしていた。すっと手を握られてドキリとしたが、その瞬間、寒気のような気配と空気が薄まって呼吸が辛くなるような胸の重さを感じた。梅咲君の視線の先に目をやると、真央の指輪をしている手の周囲に、カビのような薄暗いモヤがたちこめているのに気がついた。
「あれって……なにか悪い感じがする」
「うん。実は……精霊の力を具現化すると、その力が強まるんだ。良い気だったから安心していたけど、これも気の乱れの影響かもしれない」
「そんな……元のオーロラみたいなのには戻せないの?」
「一度壊して、それを精霊に還元してやらないといけないんだ。だけどそれには節王の力がいる」
梅咲君が、責任を感じているのか額に汗をかいている。節王の力、それって結婚したら使えるようになるって言ってた!
「じゃあ今すぐに結婚しようよ!」
「朋香? 急にどうしたの?」
「俺らラブラブだからテンション上がっちゃったとか?」
「そうじゃないんだけど、急がなきゃなの!」
私が大きな声を出したものだから、真央と田村君がびっくりしている。
「小松さん、いいの?」
「うん!」
梅咲君も目を丸くしているけれど、真剣な表情でまっすぐに私を見てくれた。これはGOだ。
「真央、待ってて、必ず助けるから!」
「え? 何が?」
「ごめんね高田さん、あとでちゃんと説明するから!」
「ちょ、二人ともどうしちゃったの!?」
背中に真央の呼びかける声を残して、私たちはまた学校へと急いだ。