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きっとお金持ちだったんだろうな、と私は目の前のその人を見ながら思った。口調は荒っぽいけれど、落ち着いた仕草や身なりから、なんとなく育ちのよさを感じる。
歳は25歳前後だろうか。年齢不詳だし強引だし透けてるけど、とりあえず悪い人ではなさそうだ。
「念のために聞いておきますけど、あなた幽霊なんですか?」
高級感のある焦げ茶色のテーブルに腰を下ろした私は、単刀直入に尋ねた。
「君は変な質問をするな」
と目の前のソファに座る彼は呑気に長い足を組んで言う。
「まあ、一般的な呼び方をすれば、そうなるだろうな」
「はあ」
それ以外の呼び方があるのだろうか。
「誠一郎」
と、唐突に彼が言った。
「え?」
「俺の名前だ。君の名前はたしか、香代子といったな」
「な、なんで私の名前知ってるんですか?」
「今日一日見てたから」
見てたって……あれもこれも、失敗の数々を全部見られていたということか。ものすごく恥ずかしいけれど、そんなことより、
「なんで私なんですか?なんで他の人には見えないんですか?私、霊感とかそういうの全然ないのに……」
「さっきから質問ばかりだな。好奇心旺盛な子供みたいだ」
「真面目に話してくださいっ」
「声を荒げると、また変人扱いされるぞ」
「…………っ」
さっきからこんな調子ではぐらかされてばかりだった。