「呼んだか?」

低い声がした。
聞こえるはずのない声。
え……幻聴……?

振り向くと、そこには誠一郎が立っていた。

「な、なんで?」
「なんでって、お前が呼んだんだろう、香代子」
「いやそうじゃなくて……消えたんじゃないの?」
「そんなわけはない。俺は死んでからいままでずっとここにいる。そしてこれからもな」
ええええ?
そ、そういうものなの?そんな感じでいいの?
「だいたい香代子を残して死ねるわけがなかろう」
「いやもう死んでるし……」
「うむ」
うむって。
「じゃあ昨日のあれは?もう思い残すことはないとか、俺はもう行くとか」
「あれは、その……照れ隠しだ」
「照れ隠し!?」
思わず叫んでしまい、一斉に注目を浴びた。
照れ隠し……私は照れ隠しに一晩中悩まされていたのか……。
「柄にもないことをしたので急に恥ずかしくなってな……まあ、そういうことだから。俺はずっと、いなくなったりしないから」
誠一郎は照れながら言った。
「変な見合いとかさせられそうになったら俺に言え。星野百貨店名義で相手の家に不幸の手紙を送りつけてやるから」
「なんだかよくわからないけれどすごく迷惑行為な気がします」

吹き抜けの大回廊。ずらりと並ぶショーウィンドウ。目の前には百貨店の品物。あふれるほどの人で賑わい、中には幽霊も紛れ込んでいる。
そして私の好きな人も、幽霊で。
ここは星野百貨店。
私はこの場所で、仕事と恋をしています。