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「俺は仕事ばかりでロクな恋愛もしてこなかった。結婚もしなかった。仕事も大事だがそれ以外の大事なこともあると忘れていた。香代子に会って、人を好きになることの大切さを初めて知った。いまさら気づいたところでどうしようもないと諦めていたが、伝えられてよかった」
観覧車を降りて、夜に浮かぶ眩い遊園地の真ん中で、誠一郎は静かに語った。
私は泣きながら頷いた。
「香代子に出会えてよかった。会社も俺が心配する必要もなさそうだ。もう思い残すことは無いよ」
「誠一郎さん……?」
嫌な予感がした。その先を聞きたくない。
けれど誠一郎は続けた。私の一番、言ってほしくなかった言葉を。
「今日はありがとう。最高に楽しい夜だった。俺はもう行くよ。じゃあ、おやすみ、香代子」
そう言って、誠一郎は闇に消えた。