仕事が終わって、更衣室。今日も女子社員たちは、あまり信憑性のなさそうな幽霊話で盛り上がっている。
今日も一日、誠一郎は姿を現さなかった。
このままずっと会えないままなんだろうか。
そう思うと、心が挫けそうになるけれど、今日はまず先に解決しなければいけない大事なことがあった。
「お疲れ。また明日ー」
「麻美ちゃん、待って……!」
麻美が更衣室を出るのを待って、声をかけた。
今日の午後はずっと話す機会がなかったから、話すのはさっき、帳簿を見ていた時以来だった。
「香代子ちゃん。どうしたの?そんなに慌てて……」
麻美は言いながら、明らかに私と目を合わそうとしない。
今日は休憩も別々で、ほとんど話をしていなかった。
……いや、麻美の態度が変わったのは、会計の時。私が帳簿を見ていたのを、見られてからだった。
こっちに来て、と私は麻美をひと気のない場所に連れ出した。
「どうして避けるの?」
私は言った。
「えっ、避けてなんて……」
「じゃあ、どうして麻美ちゃんが、買ってもいないあの香水をつけてたの?」
そう言った瞬間、麻美の顔が強張るのがわかった。
やっぱり……。
私が知らない間に、もしかして購入したしていたのかもしれないと思い、会計の引き出しにある帳簿を確認してみたのだ。でも、松岡麻美の名前は、どこにも書いていなかった。
「それは……お姉ちゃんが、持っていたのを借りたのよ」
「本当に?あの香水はまだ発売されたばかりで、うちの百貨店で先行販売していたのよ」
目を逸らす麻美に、私は胸を強く掴まれたように痛くなった。
確かめたくなかった。知りたくなかった。本当はいまだって、こんなこと言いたくない。
……でも、言わなきゃ。星野百貨店の店員として、そして、麻美の友達として。
私は両手を強く握りしめて、続けた。
「麻美ちゃんが、香水を盗んだんじゃないの?」