探すといってもこの人混みでは周囲を見渡すことさえ難しく、
「違う階に行っちゃったのかも……」
やっぱり先輩の言う通り落とし物に届けたほうがいいかな、と迷っていた時、
「わっ!?」
目の前に、突然、長身の男性が立ち塞がった。
「ご、ごめんなさいっ!急いでて……え?」
着物姿の男性が、驚いたように目を開いて、私を凝視している。
「あの……?」
「君、俺が見えるのか?」
「はい?」
この人、いま、なんて言った?
聞き間違いかと思いながら見上げると、そこにはすらりとした細身の長身で、色白の整った顔立ち、着物姿の麗しい美青年が。
誰もが振り返りそうな容姿をしているのに、不思議なことに、みな彼を無視して通り過ぎていく。
……え?
いやいや。
………え?!?!? 
今度は私のほうが目を疑う番だった。
彼の体は、透けていた。明らかに普通の人間ではあり得ない透け具合だった。
どういうこと?私の目がおかしいの?
目を擦って何度確かめても、彼は頭から足の先まで、完璧にうっすらと透けているのだった。
「えええええ!?」
「今気づいたのか」
「おおおお客様、お体が透けていらっしゃいますが大丈夫でしょうか!」
私は本能的にただならぬ危機を察知してビタンと床に尻餅をつき手足を高速で動かしながら後退りした。
「むしろ君のほうが大丈夫じゃなさそうなんだが」
ハッとして周囲を見ると、人が少し離れたところから不審者を見る目つきで自分を見ている。
私はわずかに残る理性を発揮して、幻覚を振り払うようにぶんぶんと首を振った。
けれど目の前の彼はやっぱりどうしようもなく透けていて、それどころか素知らぬ顔で、あさっての方向を向いている。
「髪飾りの持ち主を探しているんだろ」
「えっ?なんでそれを……」
「その子なら、今そこでお母さんと昇降機の列に並んでる」