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誠一郎が好き。と意識しはじめてから1週間。
彼は相変わらず暇を持て余した道楽息子のように売り場の辺りを無意味にうろうろして私の邪魔をしたり気が向けば助けてくれたりと気まぐれで。
恋をしたら、何かが変わるのだと思っていた。見える世界が変わったり、毎日が急にものすごく楽しくなったり。
でも、思ったほど、変わらなかった。
何も変わりようがなかった。
だって、相手は幽霊なのだから。
最初から、普通じゃないから。
この先何があっても、発展しようがないのだから。
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朝から雨が降り建物の中もなんとなく湿っぽい空気に満ちていたこの日、星野百貨店は朝からざわついていた。
昨日の夜、盗難があったのだという。
盗まれたのは1階の宝飾品、ショーケースに納められている高価なネックレスだ。
「宝飾の責任者は誰?」
「鍵を開けていたんじゃないの?」
「ちゃんと管理をしないと」
「いやでも閉店時間までは確かにここに」
鍵は厳重に守られているし、ケースのガラスも破られていない。まるで中の宝石だけを瞬間移動させたみたいに、きれいに抜き取られているのだった。
「誠一郎さん、何か知りませんか?」
私は、もしかしたらと、尋ねてみた。
「さあ、知らないな」
誠一郎はしれっと答えた。
「本当に?」
「ああ」
「何か隠してません?」
「しつこいぞ。そんなに気になるなら自分で調べてみればいいだろう」
不機嫌に言われて、
「そうですね……」
と私はうつむく。
誠一郎なら犯人を見つけられるかもしれないと、つい調子に乗ってしまった。
「まあ、怪しい奴がいたら、教えてやってもいいけど」
「ありがとうございますっ!」
私は手を合わせて言った。