次の休みの日曜日、香代子は気合いを入れて開店前には店の前に立っていた。扉が開く前から、すでにたくさんの買い物客が並んでいる。
10時になり、百貨店の両開きな扉が開いた。
「おはようございます。本日はご来店ありがとうございます。ごゆっくりお買い物をお楽しみくださいませ」
扉の向こうにずらりと並んで迎える社員たちの顔、いつもは迎える側なのに今日は迎えられる側にいるのでなんだか気恥ずかしくて、べつに隠れる必要もないのにお客さんの群れに紛れて店内に入った。
1階の売り場をチラリと見やると、妙子が慌ただしく走り回っていたので、邪魔をしては悪いと思い、さらりと通り過ぎて2階の呉服売り場に上がった。
「やったわ、ついにこの時が……っ!」
ひしひしと感動を噛み締めていると、
「後ろ渋滞してるぞ」
「はっ」
隣の誠一郎に呆れ声で言われて、思いきり通行人の邪魔になっているのに気づき、さっと隅にに避けた。
「だってもう、嬉しすぎて……」
「はいはい。わかったから早く見てこい」
子どもをあやすみたいに言われて少しむっとしながら、でも前を向けばもう目が鮮やかな着物の数々の虜になって、一瞬で他の景色は目に入らなくなった。
開店直後、しかも特売真っ最中の店内は大忙し、店員はお客さんの対応にかかりきりで、客として紛れ込んだ店員など相手にもしない。
べつにいいですけどね、私は私でゆっくり見ますので、とちょっと寂しく思いつつも開き直って順番に見ていく。
淡い色合いで草花を描いた古典柄、薔薇や牡丹、鳥や蝶々、その隣はゴシック調のモダンな洋柄、斬新な色合わせの幾何学模様、豊富な色やデザインに目移りしてしまう。
「あ、これ……」
見ていた物のひとつに、ふと目が止まった。
深めの赤の地、裾のところは淡いピンク色になっていて、艶やかな紫色の睡蓮の花が描かれている。花の色や葉の色が、すごくきれい。