星野百貨店が呉服商から百貨店事業に乗り出して、今年で25年。25周年記念として広告を大々的に打ち出し、様々な催しが開催され、7月の七夕の時期には、会社を上げての記念式典が行われる。
売り場でも期間限定で特売が開催されているので、連日人が多く、目が回る忙しさだ。

「ねえ香代子ちゃん、記念式典の日の着物、どうする?私、新しいのを買おうか迷ってるの」
仕事中、昼過ぎのちょっとお客さんが途切れた時間に、麻美が小声で話しかけてきた。
「私もまだ決めてないのよ」
7月行われる星野百貨店25周年記念式典。その後にはちょっとしたパーティーなどがあるらしく、最近、女性社員の話題はそのことでもちきりだった。
パーティーなんて滅多にないから楽しみという気持ちもあるけれど、着ていく服がない。普段着の着物はくたびれたものばかりだし、かと言って新しい着物は高いし、ドレスなんてもっと手が出ないし。
「うーん。やっぱりいまあるのでいいかな……」
「それはやめておいたほうがいいと思うぞ」
隣から麻美の声とは別の低い声がして、思わずビクッとする。
いつの間にかそこにいた誠一郎が真顔で言う。
「お前の普段着は地味すぎる。特別な日くらい華やかな色合いの物を着たほうがいい」
「……余計なお世話です」
「えっ?」
麻美がびっくりして私を見る。
「ごめん、私なんか余計なこと言った?」
「ううん、そうじゃないの、気にしないでっ!」
「そう?」
「そうそう、あはは」
私以外の人には彼の姿は見えないし声も聞こえないんだから、その辺もう少し気を遣ってほしいものだ。
これまでにも何度となく言ってきたのだけれど、「なんで俺がお前ごときに気を遣わなければいけないんだ?」という態度でまったくその気配なし……。
チラリと隣を見ると、誠一郎の意地の悪そうな笑み。
私は前を向いて、小さくため息を吐いた。