午後も相変わらず忙しく、お会計に品出しに包装にとあちこちへ奔走した。
「どこにいようとあなたの自由」と言ったことが効きすぎたのか、
「包装はこう、右から紙を持ってきて」
「え?ええと……」
……だから、近いですって!
人に見えないのをいいことに、無遠慮に距離感を詰めてくる。
「香代子ちゃん、大丈夫?顔怖いよ?」
「……」
後で文句を言ってやると心に誓いながら、私は無心で商品を包装した。
懇切丁寧、そして若干お節介な美形の幽霊による指導のおかげで、いままでどうしてもうまくできなかった商品の包装が、できるようになった。
「やればできるじゃない、立石さん」
普通に商品を包装しただけなのに、妙子が褒めてくれた。
普段の私、よっぽど褒めるところがないんだな……と思いつつもやっぱり嬉しくて、
「ありがとうございますっ!」
と私は感極まりながら頭を下げた。

「言っただろう。何事も経験だと」
「そうですね、経験って大事ですよね。今日は誠一郎さんに感謝します」
「さっきはどっか行けと言ったくせに、調子がいい奴だな」
笑われて、う、と声を詰まらせる。
「と、取り消したじゃないですか」
「ああ」
と誠一郎は頷いて、
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
と言った。
「えっ?」
あまりにも普通に言うので、私ははたと立ち止まる。
気づけばもう従業員用の出入り口まで来ていて、キイ、と金属音を立てて扉が閉まった。
目の前にあるのは重たい扉だけで、誠一郎の姿はもう見えなかった。