「おっとと!」
 小桜は声をあげて、突っ込んできた『それ』をなんとか避けた。ぶつかるのは回避できたものの、一瞬ふらっとして、どさりとエコバッグが地面に落ちた。
 卵などを買っていなくて良かった。体勢を立て直して、小桜は思った。
 そこでやっと、突っ込んできたものを見たのである。
 それは黒っぽい生き物であった。犬だろうか、猫だろうか。野良犬というのは近頃少ないから、猫かもしれない。
 そう思ったのだけど、どうも違うようだ。
 小桜と同様になんとかぶつかるのを避けて立ち止まった『それ』は、見た目は犬に近かった。
 けれど犬にしては尻尾が太い。どこかもっさりとしていた。体は細いのに。
 ただ、細く見えるのはその生き物が痩せているからかもしれなかった。
 いや、痩せているどころではない。ガリガリではないか。
 よく見れば毛艶も良くない。ずいぶんパサついているようだ。
 小桜のことを、じっと見ていたけれど、急に、ふっと力が抜けるような様子を見せた。その場にうずくまってしまう。
 野良の生き物であれば、触るのは良くない。
 思ったものの、どうも弱っているようなのだ。放っておいて帰るのも可哀想だ。
 心優しい小桜はそう思い、おそるおそるその生き物に近付いた。『それ』は警戒するように小桜を見上げた。ふーっふーっと荒い息をついている。
 そのとき、ばさばさっと頭上から音がした。小桜がそちらを見上げると、どうやらそれは大きな鳥。鷹……かなにかだろうか? 猛禽と呼ばれるもののような気がした。
 近くの電柱にとまったその鳥はしばらくこちらを見ていた。
 その様子で小桜は理解する。どうやらこの生き物を追いかけていたようだ。
 猛禽とはいえ、こんな犬か猫のような生き物を食べるだろうか。
 不思議に思ったけれど、人間がそばにいるのだ。
 その鳥はじっとこちらを見ていたけれど、不意に、ばさっと羽を広げた。飛び去ってしまう。山のほうへ向かって一直線に飛んでいくのを小桜は見送った。
「……もう大丈夫のようだよ」
 声をかけていた。動物なので言葉がわかるはずもないのに。
 しかしその生き物は、言葉が通じたように小桜を見上げた。目が合う。
 小桜は、おや、と思った。動物特有の、ぎょろっとした目をしているけれど、その目は案外愛嬌があった。警戒心がなければかわいらしいかもしれない。
 その瞳にほだされたように。
「うちに寄っていくかい。少しばかりなら食べるものがあるよ」
 思わずその生き物に話しかけていた。