おみくじのあとは先程見た茶屋へ入った。桜餅が確かに取り扱われていて、小桜は嬉々としてそれを頼んだ。
 彼は春の三食団子を頼んでいて、それも美味しそうであった。
 それをつい見てしまって、「食べたいんだろう」なんてからかわれてしまった。
「食いしん坊のようなこと……」
 ちょっと膨れた小桜だったが、食べたかったのは確か。彼も「悪い悪い」と言った。
 けれどそのあと「俺は全部だと多いから、ひとつあげよう」と、二本あったうちのお団子のひとつをくれたのだ。
 いちばん上に刺してある、桃色の団子。
 また彼の言葉に甘えてしまうことになったけれど、嬉しくて。お団子が貰える以上に、自分に譲って良いと言ってくれるのが嬉しくて。
 「ありがとう」と素直に取って、頬張った桃色団子はほんのり甘く、もちもちと優しい食感がした。
 桜餅とお団子を頂いて、お茶も飲んで、一息ついて。
 帰路につくことになった。どうやら気付かぬうちに随分長居をしてしまったようだ。空がうっすらと夕暮れに近付いている。
 境内を歩きながら、物寂しいような気持ちを小桜は覚えた。
 とても幸せな時間だったけれど、この夢か現か、その狭間のような時間はいつか終わるのだろう。
 この『彼』といられるのもそう長い時間ではないに違いない。
 小桜の寂しさを読み取ったように、彼は小桜を見下ろした。背が高いのだ。小桜より頭ひとつは高い。
 そこから小桜の顔を見下ろし、そっと手を伸ばされた。あたたかな手が再び小桜の手を握ってくれる。
「夕方はどこか寂しいね」
 ぽつりと言われた言葉。小桜は「そうね」としか言えなかった。
 なにを言ったものかと思った。
 きっと時間はあまりない。こうして会えた……いや、再会できた彼に。なにを言ったものか。
 境内を抜けて、山門をくぐる。ここから家のあるほうへ戻るのだ。近くまで彼は送ってくれるはず。
 それまでには。
「さくらちゃん」
 不意に彼が足を止めた。小桜もつられて立ち止まる。
 彼は上に視線を向けた。こちらも同じようにそちらを見上げて……小桜は「まぁ」と感嘆の声を零してしまった。
 桜の立派な樹があった。夕方になり少し風が出てきたせいか、いくつかはらはらと花びらが落ちてくる。