「お通夜に来てくださってたんですね。すぐに気づかなくて申し訳ありません」

 柚香が言うと、三人は顔を見合わせて不思議そうな表情になる。

「どうかされましたか?」
「いえね、こんな会話を前にもどこかでしたような気がして……」

 柚香は首を捻りながら答える。

「先ほど姉も来ていましたので、もしかして姉ともお話しされたのでしょうか?」
「嫌だわ、そんなすぐのことなら忘れたりはしないわよ」

 カーディガンの女性が笑いながら右手を振った。

「そうですよね、失礼しました」

 柚香はそう言ってから、ポンと手を打つ。

「あの、これからご近所を回って、ご挨拶がてらスイーツをお配りしようと思ってたんです。よろしければ、みなさんにもお渡ししていいですか? 抹茶のガトーショコラなんですけど」
「まあ、そんなおしゃれなお菓子をいただけるの?」
「はい。抹茶とホワイトチョコレートを使っています。コーヒーにも紅茶にも、意外と日本茶にも合うと思いますよ」
「まあ、おいしそう!」
「ステキ」
「ぜひいただきたいわぁ」

 女性たちが口々に言った。

「少々お待ちくださいね」

 柚香はシャッターを持ち上げて店内に入った。ガトーショコラを三個、姉が持ってきてくれたラッピング袋に入れてワイヤーリボンをかけ、それらを持って店の外に戻る。

「お待たせしました。当店で販売予定の抹茶のガトーショコラです」

 柚香が差し出すと、女性たちは一様に笑顔になった。

「あら、嬉しい」
「おいしそうだわ」
「これ、ししこまに持ち込んだらダメかしらねぇ」

 最後の女性の言葉を聞いて、柚香は首を傾げた。

「ししこま、ですか?」
「ええ。ものすごく美形のマスターが開いているお茶処なんだけど、日本茶と果物しか出さないの。一時期、お菓子を作ってくれる女の子がいたんだけど、すぐに辞めちゃってねぇ。果物もいいけど、たまにはこういうおしゃれなお菓子を出してほしいわねぇ」
「ししこまは狗守山の麓にあってね、マスターは狗守神社にお参りしてくださった人をねぎらいたいから、お代はお賽銭でいい、な~んて言うのよ」
「変わってるでしょ。でも、雰囲気がよくてくつろげるし、不思議と癒やされるから、毎日のように通っちゃうのよねぇ」

 三人は顔を見合わせて「本当にねぇ」「そうよ」などと言い合っていたが、カーディガンの女性が腕時計を見て「あら、嫌だ」と声を上げた。