「あなたが戻れなくなるようなことは言えません」
柚香の目から新たな涙がこぼれた。
その一言がすべてを物語っていた。彼の心も、柚香が戻らなければならないことも。
柚香はごしごしと目をこすった。それでも止まらない涙をにじませながら、大きな笑顔を作る。
「獅狛さん、ありがとうございました。ししこまで過ごせて楽しかったです。お客さまの顔が見えて、喜んでもらえて……。あんな幸せがあるんだって気づくことができました。短い間だったけど、本当にお世話になりました。ししこまで過ごした日々を私は忘れてしまうのでしょうけど……またいつか、獅狛さんに会いたいです」
獅狛はなにも答えず、ただ口元がかすかに弧を描いた。
「獅狛さん」
柚香は獅狛の腕に掴まり、背伸びをして彼の唇にキスをした。柔らかな唇に触れた刹那、狂おしいような感情が押し寄せてくる。
「柚香さん」
獅狛が驚いたように目を見開き、柚香は泣きながら笑った。
「獅狛さん、大好きでした」
柚香は一歩下がって大きく息を吸い込む。
「目が覚めたら、あなたに救ってもらった人生を精いっぱい生きます。さようなら」
「……さようなら」
獅狛が頷き、ふっと右手を動かした。その動きにつられるように、魂の柚香はベッドで眠る柚香の方へと運ばれていく。
彼の名前を呼ぼうと口を動かした瞬間、体が急降下を始めた。まるでジェットコースターに乗っているかのように、どんどん速度を速める。
「きゃあああっ」
体が引き延ばされ、ねじられ……息苦しさに意識が奪われていく。
「あああああっ」
そのとき、かすかに獅狛の声が聞こえた。
『いつも人を助けるばかりだった私を、あなたは初めて助けてくれました。犬の姿だった私を気遣ってくれました。優しくて一生懸命なあなたを、私は誰よりも大切に、愛おしく思っていたんですよ――』
柚香の目から新たな涙がこぼれた。
その一言がすべてを物語っていた。彼の心も、柚香が戻らなければならないことも。
柚香はごしごしと目をこすった。それでも止まらない涙をにじませながら、大きな笑顔を作る。
「獅狛さん、ありがとうございました。ししこまで過ごせて楽しかったです。お客さまの顔が見えて、喜んでもらえて……。あんな幸せがあるんだって気づくことができました。短い間だったけど、本当にお世話になりました。ししこまで過ごした日々を私は忘れてしまうのでしょうけど……またいつか、獅狛さんに会いたいです」
獅狛はなにも答えず、ただ口元がかすかに弧を描いた。
「獅狛さん」
柚香は獅狛の腕に掴まり、背伸びをして彼の唇にキスをした。柔らかな唇に触れた刹那、狂おしいような感情が押し寄せてくる。
「柚香さん」
獅狛が驚いたように目を見開き、柚香は泣きながら笑った。
「獅狛さん、大好きでした」
柚香は一歩下がって大きく息を吸い込む。
「目が覚めたら、あなたに救ってもらった人生を精いっぱい生きます。さようなら」
「……さようなら」
獅狛が頷き、ふっと右手を動かした。その動きにつられるように、魂の柚香はベッドで眠る柚香の方へと運ばれていく。
彼の名前を呼ぼうと口を動かした瞬間、体が急降下を始めた。まるでジェットコースターに乗っているかのように、どんどん速度を速める。
「きゃあああっ」
体が引き延ばされ、ねじられ……息苦しさに意識が奪われていく。
「あああああっ」
そのとき、かすかに獅狛の声が聞こえた。
『いつも人を助けるばかりだった私を、あなたは初めて助けてくれました。犬の姿だった私を気遣ってくれました。優しくて一生懸命なあなたを、私は誰よりも大切に、愛おしく思っていたんですよ――』