ミナコの顔が苦しそうに歪んだ。
「私が泣き寝入りをしたせいで、新たな被害者が生まれてしまった。もし私が弁護士を立てるなりして彼と争っていたら、その子はそんなことをせずに済んだのかもって考えたら、申し訳なくてたまらなくなって……。それで、今日、その子の入院している病院にお見舞いに行ったんです。そうしたら、その子はずっと昏睡状態で目を覚まさないって……。お母さんがずっとついてらしたんだけど、すごく気の毒で」
ミナコの表情が痛々しくて、柚香にはかける言葉が見つからなかった。
ミナコは残っていた黒ゴマのマカロンを食べ、お茶を飲んで大きく息を吐いた。なにか考えるようにしばらくうつむいていたが、やがて顔を上げた。その顔はさっきまでの悲しげな表情とは一変していて、瞳に強い光を宿している。
「私、決めました。今から彼と闘います。彼を訴えます」
「でも、それは……」
とても大変なことだと思う、という言葉を柚香は飲み込んだ。
「わかっています。彼の家族には強力なコネのある人たちがいて、私に不利なのはわかっています。でも、幼馴染みのお兄さんがとても頼りになるやり手の弁護士で、クビになったとき『いつでも力になる』って言ってくれたんです。今まで怖くて闘うことから逃げてましたけど、私、今日その子に会いに行って、決心がつきました」
柚香はミナコを見た。ミナコは煎茶を飲み干してすっきりした表情になる。
「がんばります。応援してくれる人がいるから」
「うまくいくようお祈りしています」
獅狛が静かな声で言った。
「……応援、してます」
柚香はゆっくりと言葉を発した。
「ありがとうございます」
ミナコは「ごちそうさまでした」と席を立った。
「おいくらですか?」
ミナコに訊かれて、獅狛は慈愛に満ちた表情で答える。
「ししこまは、狗守神社にお参りくださった方に一息ついていただきたくて、開いたお茶処です。ですので、お客さまにはお気持ちをいただいています」
獅狛が視線で賽銭箱を示し、ミナコは目を丸くした。
「えっ」
ミナコは賽銭箱から獅狛、柚香へと視線を動かした。
「まさか……お代はお賽銭でいいってことなんですか?」
「はい」
獅狛と柚香が同時に答え、ミナコの顔が今にも泣き出しそうになる。
「ありがとう……ございます。まだ世の中にこんなに優しい人たちがいたなんて……嬉しいです」
「私が泣き寝入りをしたせいで、新たな被害者が生まれてしまった。もし私が弁護士を立てるなりして彼と争っていたら、その子はそんなことをせずに済んだのかもって考えたら、申し訳なくてたまらなくなって……。それで、今日、その子の入院している病院にお見舞いに行ったんです。そうしたら、その子はずっと昏睡状態で目を覚まさないって……。お母さんがずっとついてらしたんだけど、すごく気の毒で」
ミナコの表情が痛々しくて、柚香にはかける言葉が見つからなかった。
ミナコは残っていた黒ゴマのマカロンを食べ、お茶を飲んで大きく息を吐いた。なにか考えるようにしばらくうつむいていたが、やがて顔を上げた。その顔はさっきまでの悲しげな表情とは一変していて、瞳に強い光を宿している。
「私、決めました。今から彼と闘います。彼を訴えます」
「でも、それは……」
とても大変なことだと思う、という言葉を柚香は飲み込んだ。
「わかっています。彼の家族には強力なコネのある人たちがいて、私に不利なのはわかっています。でも、幼馴染みのお兄さんがとても頼りになるやり手の弁護士で、クビになったとき『いつでも力になる』って言ってくれたんです。今まで怖くて闘うことから逃げてましたけど、私、今日その子に会いに行って、決心がつきました」
柚香はミナコを見た。ミナコは煎茶を飲み干してすっきりした表情になる。
「がんばります。応援してくれる人がいるから」
「うまくいくようお祈りしています」
獅狛が静かな声で言った。
「……応援、してます」
柚香はゆっくりと言葉を発した。
「ありがとうございます」
ミナコは「ごちそうさまでした」と席を立った。
「おいくらですか?」
ミナコに訊かれて、獅狛は慈愛に満ちた表情で答える。
「ししこまは、狗守神社にお参りくださった方に一息ついていただきたくて、開いたお茶処です。ですので、お客さまにはお気持ちをいただいています」
獅狛が視線で賽銭箱を示し、ミナコは目を丸くした。
「えっ」
ミナコは賽銭箱から獅狛、柚香へと視線を動かした。
「まさか……お代はお賽銭でいいってことなんですか?」
「はい」
獅狛と柚香が同時に答え、ミナコの顔が今にも泣き出しそうになる。
「ありがとう……ございます。まだ世の中にこんなに優しい人たちがいたなんて……嬉しいです」