その三日後の金曜日。仁科たち三人が帰った夕方、格子戸が遠慮がちに開けられた。いちはやく客の来店に気づいていた獅狛は、カウンターを回って客を迎える。

「ようお越しくださいました」

 声につられるようにして、二十代半ばくらいの女性がおずおずと入ってきた。肩より少し長い髪は黒に近いブラウンで、黒のニットにベージュのパンツ、茶色のコートを着ている。ややタレ気味の目で店内を見回し、楠を見て目を丸くした。

「いらっしゃいませ」

 柚香が声をかけると、女性は年の近い店員の姿を見て、ホッとしたように表情を緩めた。

「こんにちは」
「お好きなお席へどうぞ」

 獅狛に声をかけられ、女性は楠を見上げて小さく首を傾げてから、カウンターの右端の席に座った。

「あの、なにか温かいものを飲みたいのですが……」
「今日はパティシエール特製のマカロンに合わせて煎茶をお出ししています」
「マカロンに煎茶……」

 女性が戸惑い顔でつぶやき、柚香は細長い白い皿を持ち上げて、そこにのせた色とりどりのマカロンを見せる。

「左から小豆、きな粉、抹茶、黒ゴマのマカロンです。すっきりとした煎茶によく合いますよ」
「そうですか……じゃあ……お願いします」

 女性は小声で答えた。そうしてうつむき、コートの前をギュッと合わせる。

「寒いですか?」

 獅狛が問いかけ、女性はハッとしたように顔を上げた。

「あ、いえ、そういうわけでは」

 女性はコートを脱いで、足元の籐製のカゴに入れた。

 獅狛が煎茶を湯飲みに注いだタイミングで、柚香はマカロンをのせた皿を女性客の前に置いた。その隣に獅狛が湯飲みを並べる。

「ごゆっくりどうぞ」

 柚香が声をかけ、女性は「いただきます」と言って、小豆のマカロンをつまんだ。

「和風のマカロンって……初めて食べます」

 女性は一口かじってゆっくりと味わう。彼女が口を動かすにつれて、表情が少し緩むのが見て取れた。

(こんなところにひとりで来るなんて……なにかあったのかな)

 柚香は気になりながら女性を見た。女性は小豆のマカロンを食べ終え、煎茶を飲んで表情をほころばせる。

「サンドしているクリームに小豆が混ぜてあるのかと思ったら、マカロン自体に小豆が混ぜてあるんですね。ミルククリームとの相性が抜群です」
「ありがとうございます」
「確かに煎茶と合いますよね。私が働いていたお店では、こういうマカロンはなかったなぁ……」

 女性の言葉を聞いて、柚香の声がつい大きくなる。