次第に体が冷たく重くなって、指先も動かせなくなった。唯一動く唇をかすかに振るわせ、言葉に想いをのせる。
「獅狛さん……好き、です……」
そのとき、不意に聞き慣れた声が頭の中に響いた。
『柚香さん! どこにいるんですか?』
獅狛の声だ。
(ついに幻聴まで……)
柚香はゆっくりと目を閉じた。
『柚香さん? 今どこです? 柚香さん!』
頭の中の声が大きく響き、柚香はうっすらと目を開けた。けれど、視界に入るのは、乾いたアスファルトだけだ。
「獅狛さん……」
『すぐあなたを見つけ出します! それまで逝(い)ってはいけませんっ』
柚香は口元を歪めて笑った。
(行くってどこへ……? 動けないのに……どこにも行けっこない)
柚香が意識を手放しかけたとき、耳にかすかに振動音が聞こえた。誰かがアスファルトの上を走っているようだ。私を見つけてくれるだろうか、と思ったとき、足音が大きくなって止まった。かと思うと、背中に誰かの手が触れて抱き起こされる。
「柚香さん、私です。わかりますか?」
獅狛の手が触れている部分から温もりが伝わってきて、柚香は小さく息を吐いた。あんなに苦しかったのに、不思議と楽に呼吸ができるようになっている。
「しは……く……さ……ん」
重たいまぶたを懸命に持ち上げると、まぶたの隙間から獅狛の心配顔が見えた。
(幻覚……?)
「ああ、柚香さん!」
獅狛が柚香をギュウッとかき抱いた。彼の温もりに包まれ、彼が本当に駆けつけてくれたのだとわかった。安堵のあまり、再び意識が遠ざかっていく。
「柚香さん、しっかりしてください」
「迷惑……ばかり……ごめんなさ……」
薄れゆく意識の中、柚香は獅狛に抱き上げられるのを感じた。
右手を何度も撫でられる感覚に気づき、柚香はふと目を開けた。視界には、ししこまに来てから毎晩見ている木の年輪模様の板天井が映り、体は暖かな布団に包まれていた。
「柚香さん、気がつきましたか?」
獅狛の声が聞こえて右側を見たら、彼が座って心配そうに柚香を見つめていた。目が合って、獅狛が安心したように微笑む。
「よかった」
獅狛が両手で柚香の右手をギュッと握った。今まで手を撫でてくれていたのが彼だとわかり、柚香の目にじわじわと熱いものが浮かぶ。
「獅狛さん……どうして私があそこにいたとわかったんですか……?」
獅狛は柚香の手を放し、両手を膝の上に置いた。そして咎めるような口調で言う。
「獅狛さん……好き、です……」
そのとき、不意に聞き慣れた声が頭の中に響いた。
『柚香さん! どこにいるんですか?』
獅狛の声だ。
(ついに幻聴まで……)
柚香はゆっくりと目を閉じた。
『柚香さん? 今どこです? 柚香さん!』
頭の中の声が大きく響き、柚香はうっすらと目を開けた。けれど、視界に入るのは、乾いたアスファルトだけだ。
「獅狛さん……」
『すぐあなたを見つけ出します! それまで逝(い)ってはいけませんっ』
柚香は口元を歪めて笑った。
(行くってどこへ……? 動けないのに……どこにも行けっこない)
柚香が意識を手放しかけたとき、耳にかすかに振動音が聞こえた。誰かがアスファルトの上を走っているようだ。私を見つけてくれるだろうか、と思ったとき、足音が大きくなって止まった。かと思うと、背中に誰かの手が触れて抱き起こされる。
「柚香さん、私です。わかりますか?」
獅狛の手が触れている部分から温もりが伝わってきて、柚香は小さく息を吐いた。あんなに苦しかったのに、不思議と楽に呼吸ができるようになっている。
「しは……く……さ……ん」
重たいまぶたを懸命に持ち上げると、まぶたの隙間から獅狛の心配顔が見えた。
(幻覚……?)
「ああ、柚香さん!」
獅狛が柚香をギュウッとかき抱いた。彼の温もりに包まれ、彼が本当に駆けつけてくれたのだとわかった。安堵のあまり、再び意識が遠ざかっていく。
「柚香さん、しっかりしてください」
「迷惑……ばかり……ごめんなさ……」
薄れゆく意識の中、柚香は獅狛に抱き上げられるのを感じた。
右手を何度も撫でられる感覚に気づき、柚香はふと目を開けた。視界には、ししこまに来てから毎晩見ている木の年輪模様の板天井が映り、体は暖かな布団に包まれていた。
「柚香さん、気がつきましたか?」
獅狛の声が聞こえて右側を見たら、彼が座って心配そうに柚香を見つめていた。目が合って、獅狛が安心したように微笑む。
「よかった」
獅狛が両手で柚香の右手をギュッと握った。今まで手を撫でてくれていたのが彼だとわかり、柚香の目にじわじわと熱いものが浮かぶ。
「獅狛さん……どうして私があそこにいたとわかったんですか……?」
獅狛は柚香の手を放し、両手を膝の上に置いた。そして咎めるような口調で言う。