男性に矢継ぎ早に問われて、柚香はますます声を小さくしながら答える。
「あの、でも、ここにはここのいいところがあると思うんです。時間に追われて仕事をしなくてもいいので、丁寧にスイーツを作れますし、常連さんは家族みたいに親しく話しかけてくださるし……。それに、私、実は少し前まで都会で働いていたんですけど、そのときよりも心はずっと安らいで感じます」
「なるほどね」
男性は湯飲みを取り上げて一口飲んだ。そうして目を細めてから、今度はゆっくりと味わうように口に含む。
「オフィス街の定食屋で飲むお茶とは違うな……。確かに仕事に追われていたら、コーヒーをがぶ飲みするだけで、こんなふうにゆっくりとお茶を味わって飲んだりはできないな」
男性はスプーンを取り上げ、ブランマンジェをすくった。柔らかなそれを口に入れて、小さく首を傾げる。
「ああ、ゴマの香りと味がする」
そうしてふっと微笑み、「うまい」とつぶやいた。
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
柚香はホッとしてテーブルを離れようとしたが、男性に呼び止められた。
「ねえ、キミ」
「はい」
「ほかにお客はいないだろ? ちょっと話し相手になってよ。はるばるこんなところまで来たのに目的が達成できなくて、このまま帰る気になれないんだ」
「ええと……」
柚香はチラッとカウンターの獅狛を見た。仕事中だがお客さまのお願いだから聞くべきだろうか迷ったが、獅狛が頷いたので、男性と向かい合う席に座った。その柚香の前に獅狛が湯飲みを置く。
「柚香さんの分です。どうぞ」
「ありがとうございます」
男性はスーツのポケットから革製の名刺入れを取り出し、一枚抜いてテーブルの上に置いた。
「俺、滝井(たきい)壮一朗(そういちろう)って言って、スマホアプリを作る会社で働いているんだ」
男性が差し出した名刺を見ると、株式会社ティートゥーユーという社名と取締役営業部長という肩書き、それに彼の氏名と電話番号、Eメールアドレスが印字されていた。
「部長さん、ですか」
柚香は名刺から男性へと視線を動かした。
「あの、でも、ここにはここのいいところがあると思うんです。時間に追われて仕事をしなくてもいいので、丁寧にスイーツを作れますし、常連さんは家族みたいに親しく話しかけてくださるし……。それに、私、実は少し前まで都会で働いていたんですけど、そのときよりも心はずっと安らいで感じます」
「なるほどね」
男性は湯飲みを取り上げて一口飲んだ。そうして目を細めてから、今度はゆっくりと味わうように口に含む。
「オフィス街の定食屋で飲むお茶とは違うな……。確かに仕事に追われていたら、コーヒーをがぶ飲みするだけで、こんなふうにゆっくりとお茶を味わって飲んだりはできないな」
男性はスプーンを取り上げ、ブランマンジェをすくった。柔らかなそれを口に入れて、小さく首を傾げる。
「ああ、ゴマの香りと味がする」
そうしてふっと微笑み、「うまい」とつぶやいた。
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
柚香はホッとしてテーブルを離れようとしたが、男性に呼び止められた。
「ねえ、キミ」
「はい」
「ほかにお客はいないだろ? ちょっと話し相手になってよ。はるばるこんなところまで来たのに目的が達成できなくて、このまま帰る気になれないんだ」
「ええと……」
柚香はチラッとカウンターの獅狛を見た。仕事中だがお客さまのお願いだから聞くべきだろうか迷ったが、獅狛が頷いたので、男性と向かい合う席に座った。その柚香の前に獅狛が湯飲みを置く。
「柚香さんの分です。どうぞ」
「ありがとうございます」
男性はスーツのポケットから革製の名刺入れを取り出し、一枚抜いてテーブルの上に置いた。
「俺、滝井(たきい)壮一朗(そういちろう)って言って、スマホアプリを作る会社で働いているんだ」
男性が差し出した名刺を見ると、株式会社ティートゥーユーという社名と取締役営業部長という肩書き、それに彼の氏名と電話番号、Eメールアドレスが印字されていた。
「部長さん、ですか」
柚香は名刺から男性へと視線を動かした。