柚香は鍋に和三盆と水を入れてキャラメルソースを作った。仕上げに黒みつを少量加えて風味をつければ、ソースの完成だ。

「今すぐ食べたいけど、ダメなんだよなぁ」

 奏汰が切なそうにため息をついた。

「はい」
「仕方ない。ドライブでもしてどこかで時間を潰してくるかな」

 奏汰が立ち上がったので、柚香は彼を呼び止めた。

「奏汰さん」
「ん?」
「あの、私のスマホ、圏外になってるんですけど、どこまでいけば電波が届きますか? もしよかったら、電波の届くところまで車で乗せてってもらえませんか?」
「あー……」

 奏汰はチラッと獅狛を見た。柚香は獅狛を見る。

「少し留守にしても構いませんか?」
「それは困ります」

 きっぱり拒否され、柚香は不満顔にならないよう心がけながら言葉を発する。

「住み込みで働く約束でしたけど……ししこまから出ちゃいけないってわけではないですよね?」
「そうですが、柚香さんはスマホで連絡を取りたい人がいるのでしょうか?」
「そういうわけじゃないですけど……。ただ、どこまで行けばスマホが使えるのか知りたくて」
「では、こうしましょう。明日、午前中に少し店を閉めて三人で出かけましょう」
「えっと、でも、それだとお客さまが来たときに困りませんか?」

 獅狛はため息をついて柚香をまっすぐに見た。

「わかりませんか? あなたを奏汰さんとふたりきりにしたくないのです」

 獅狛に真剣な目で見られて、柚香の心臓が大きく跳ねた。さっきの蒸善の言葉といい、今の獅狛の言葉といい……。

「それって、もしかして」

(ヤキモチ……?)

 柚香は顔が熱くなるのがわかった。それとともに嬉しい気持ちが湧き上がってきて、柚香の胸がドキドキと鳴る。

 けれど、そんな彼女の表情を見て、獅狛は小さく首を横に振った。

「いえ、そういう意味ではありません。深い意味に取らないでください」

 獅狛の真意を測りかねて、柚香は眉を寄せた。奏汰が笑いながら言葉を挟む。

「柚香ちゃんってば鈍いなぁ。要するに、俺みたいな女たらしと柚香ちゃんをふたりきりにしたくないって意味だよ」
「そういうことです。それ以上の意味はなにもありません」

 獅狛にきっぱり言われて、柚香は顔がカーッと熱くなるのを感じた。火でも噴きそうなくらいだ。