それから二日経った火曜日の朝。

「ちーっす」

 格子戸を開けて、奏汰がいつものように買い物袋を持って入ってきた。カウンター席でスイーツのレシピを考えていた柚香は、立ち上がって彼を迎える。

「奏汰さん、おはようございます。買い物、いつもありがとうございます」
「お安いご用だよ」

 奏汰はカウンターに買い物袋を置いて、辺りを見回す。

「獅狛さんは?」
「蒸善(じょうぜん)さんって方と和室でお話ししています」

 柚香は三十分ほど前に獅狛を訪ねてきた六十歳くらいの男性の姿を思い浮かべた。背は一六〇センチくらいだったが、ロマンスグレーがダンディで、焦げ茶色の着物とグレーの羽織が似合うおしゃれな男性だった。

「蒸善のじいさん、なにしに来たの?」
「茶葉を持ってきてくれました。奏汰さんもご存知の方なんですか?」
「ああ。獅狛さんの使いでたまに茶葉をもらいに行くんだ。じいさんの方から来るなんて珍しいな」

 奏汰は中身を出そうと買い物袋に手を入れた。そんな彼に、柚香はおずおずと話しかける。

「あの……奏汰さんは……幽霊の存在を信じますか?」
「え?」

 奏汰はまさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔でぽかんと口を開けて柚香を見た。

「藪から棒に、いったいなに?」
「じ、実は、二日前の日曜日に不思議なことがあったんです……」

 柚香はアキコとオースティンの出来事をかいつまんで説明した。

「私が夢を見たんだとか、嘘をついていると思いますか? でも、私、本当にアキコさんに会いましたし、ロンドンのカフェにも行ったんです……」

 奏汰はカウンター席に座って柚香の話を聞いていたが、聞き終えるとまっすぐに柚香の目を見た。

「俺は信じるよ」

 奏汰はいつになく真面目な表情だった。普段はおちゃらけている彼のそんな顔を見て、柚香はホッと息を吐き出す。

「よかった! こんな話、ほかにできる人がいなくて!」
「柚香ちゃんが信じないって言うのもおかしな話だけどな」
「どういう意味ですか?」

 柚香が首を傾げ、奏汰は座ったまま右手を伸ばして柚香の頬に触れた。柚香はビクッとして一歩下がる。

「俺は信じるよ」

 奏汰がもう一度言った。初めて会ったときは奏汰のことを苦手だと思ったが、彼にも彼なりに抱えているものがあるのだと知って、奏汰を少し身近に感じるようになった。その彼が理解を示してくれたのが嬉しい。

「ありがとうございます」
「それはそうと今日はなにを作るの? ゴマ団子?」

 奏汰は買い物袋から金ゴマのパックを取り出して尋ねた。