そう思った瞬間、柚香の足元がグラグラと揺れ始めた。
「きゃ……」
柚香は驚いて獅狛の背中にギュウッと手を回した。だが、アキコたちは動じる様子もなくケーキを食べ続けている。やがてアキコとオースティンのいる世界が、柚香のいる場所から切り離されたように、空へと上っていく。
(なに? なにがどうなってるの!?)
その直後、頭上を大きな音を立てて飛行機が横切った。映画や歴史の教科書で見るようなダークグリーンのプロペラ機で……第二次世界大戦で使われた戦闘機だ! 機体の底が開いて、不格好な爆弾が次々と投下される。
「きゃーっ」
柚香は悲鳴を上げて獅狛の胸に顔を押しつけた。大きな爆発音がして、周囲を風が吹き荒れる。激しい音が耳元で炸裂し、怖くて目を開けることができない。爆発音のようにも、さっきの竜巻の音のようにも聞こえる。
「獅狛さん!」
恐怖のあまりガタガタと体が震えるのを止められない。
「怖いですよね。でも、あなたに危害は加えさせませんから。もう少し辛抱してください」
獅狛の手がなだめるように背中を上下した。経験したことのないような轟音と振動が怖くてたまらない。
柚香は歯を食いしばって、悲鳴を上げるのをどうにかこらえた。
「大丈夫です。あなたは私が守ります」
その低く穏やかな声に、少しずつ恐怖心が和らいでいく。温かく包み込んでくれる獅狛の存在が心強い。
(この人なら……この人と一緒なら……大丈夫)
そんな安心感が湧き上がってきて、柚香は彼の胸の頬を預けた。こんな緊迫した状況なのに不思議だ。
ふと気づいたときには辺りがしんとしていて、柚香はおそるおそる目を開けた。
「ええっ」
今度は目の前に一面の焼け野原が広がっていた。
「なにこれ……」
目の前を、ボロボロの着物やもんぺを来た人たちが力なく歩いていく。その中に一人の女性の姿を見つけて、柚香は「あっ」と声を上げた。顔が汚れ、やつれて髪も乱れているが、あのお下げ髪の女性、アキコだ。
「アキコさん!」
柚香は声をかけたが、彼女は振り返ることなく、闇市の人混みに紛れた。やがて画面が切り替わるように道路が作られ、大きな建物が建てられ、いつしか鉄道が敷設されて……早送りのように今の東京の姿が作り上げられていく。
「これって……第二次世界大戦後の日本……?」
柚香はぼんやりとつぶやいた。
「はい。巻き戻された時間が今度は早送りされているところです」
時間の巻き戻しとか早送りとか、信じられないことばかりだが……。
柚香は顔を上げて獅狛を見た。そのとき、彼の端整な顔がすぐ近くにあって、獅狛に抱きついていたことを今さらながら思い出す。離れなければ、と思うけれど、ずっとこのままでいたい、とも思った。
「柚香さん」
獅狛と視線が絡み、柚香の鼓動が大きく跳ねる。
そのとき、獅狛がかすかに眉を寄せた。それが切なそうにも苦悩しているようにも見えて、柚香は彼に失礼なことをしていたのだと思う。
「すみません……」
柚香はパッと彼から離れた。獅狛は柚香から手を放し、一度息を吐いて言う。
「あのふたりとのお別れの時間です」
「きゃ……」
柚香は驚いて獅狛の背中にギュウッと手を回した。だが、アキコたちは動じる様子もなくケーキを食べ続けている。やがてアキコとオースティンのいる世界が、柚香のいる場所から切り離されたように、空へと上っていく。
(なに? なにがどうなってるの!?)
その直後、頭上を大きな音を立てて飛行機が横切った。映画や歴史の教科書で見るようなダークグリーンのプロペラ機で……第二次世界大戦で使われた戦闘機だ! 機体の底が開いて、不格好な爆弾が次々と投下される。
「きゃーっ」
柚香は悲鳴を上げて獅狛の胸に顔を押しつけた。大きな爆発音がして、周囲を風が吹き荒れる。激しい音が耳元で炸裂し、怖くて目を開けることができない。爆発音のようにも、さっきの竜巻の音のようにも聞こえる。
「獅狛さん!」
恐怖のあまりガタガタと体が震えるのを止められない。
「怖いですよね。でも、あなたに危害は加えさせませんから。もう少し辛抱してください」
獅狛の手がなだめるように背中を上下した。経験したことのないような轟音と振動が怖くてたまらない。
柚香は歯を食いしばって、悲鳴を上げるのをどうにかこらえた。
「大丈夫です。あなたは私が守ります」
その低く穏やかな声に、少しずつ恐怖心が和らいでいく。温かく包み込んでくれる獅狛の存在が心強い。
(この人なら……この人と一緒なら……大丈夫)
そんな安心感が湧き上がってきて、柚香は彼の胸の頬を預けた。こんな緊迫した状況なのに不思議だ。
ふと気づいたときには辺りがしんとしていて、柚香はおそるおそる目を開けた。
「ええっ」
今度は目の前に一面の焼け野原が広がっていた。
「なにこれ……」
目の前を、ボロボロの着物やもんぺを来た人たちが力なく歩いていく。その中に一人の女性の姿を見つけて、柚香は「あっ」と声を上げた。顔が汚れ、やつれて髪も乱れているが、あのお下げ髪の女性、アキコだ。
「アキコさん!」
柚香は声をかけたが、彼女は振り返ることなく、闇市の人混みに紛れた。やがて画面が切り替わるように道路が作られ、大きな建物が建てられ、いつしか鉄道が敷設されて……早送りのように今の東京の姿が作り上げられていく。
「これって……第二次世界大戦後の日本……?」
柚香はぼんやりとつぶやいた。
「はい。巻き戻された時間が今度は早送りされているところです」
時間の巻き戻しとか早送りとか、信じられないことばかりだが……。
柚香は顔を上げて獅狛を見た。そのとき、彼の端整な顔がすぐ近くにあって、獅狛に抱きついていたことを今さらながら思い出す。離れなければ、と思うけれど、ずっとこのままでいたい、とも思った。
「柚香さん」
獅狛と視線が絡み、柚香の鼓動が大きく跳ねる。
そのとき、獅狛がかすかに眉を寄せた。それが切なそうにも苦悩しているようにも見えて、柚香は彼に失礼なことをしていたのだと思う。
「すみません……」
柚香はパッと彼から離れた。獅狛は柚香から手を放し、一度息を吐いて言う。
「あのふたりとのお別れの時間です」