「わ、私には、奏汰さんが必要ですっ」
「同情なんかいらない」

 奏汰が顔を向けて柚香を見下ろした。その目が冷めていて、柚香の胸がヒヤッとする。

「同情なんかじゃないです」
「じゃあ、なんなんだよ!?」

 奏汰がいら立たしげに言葉をぶつけた。

「り、理由なんてわからないです。でも、私と同じような気持ちだった奏汰さんをひとりにできないって……そう感じたんです。それはきっと、私にとって奏汰さんという存在が必要だからだと思います。ここにいてほしいって……思うんです」
「なんだよ、それ」

 奏汰が腕を引き抜こうとするので、柚香は放すまいと両手に力を入れた。そのとき、いつの間にやってきたのか、獅狛がふたりを横からふわりと抱いた。

「私には奏汰さんも柚香さんも必要です」
「獅狛さん……」

 肩に触れる獅狛の胸が温かくて、柚香の目にじわじわと涙が滲んだ。

「あなた方を必要とする人は、たくさんいなければダメですか? 私は心からあなた方を必要としています。それではいけませんか?」

 獅狛の低く穏やかな声が心にじぃんと染み込み、柚香は左手で彼の作務衣の袖をキュッと掴んだ。

「そんなこと……ないです……。嬉しいです……」
「奏汰さんも、まずは欲張らないで、今あなたを必要としている人の声に耳を傾けてください」
「……放せよ」

 奏汰の低い声がして、柚香は再び両手で彼の腕を掴んだ。

「嫌です」

 奏汰は大きく息を吐いて、柚香の手を軽く叩いた。

「柚香ちゃんに抱きつかれるのはいいんだ。だけど、いつまでも男に抱きつかれていたくはない」

 そう言う奏汰の頬は照れたように染まっていた。

「奏汰さん……」

 柚香は奏汰の腕を掴むのはやめたが、まだ心配で彼のジャケットの生地を握った。獅狛がふたりの肩にそっと手を置き、奏汰は顔を背けて言う。

「悪かった。逃げてばかりいたことを責められたような気がして……頭に血が上ったんだ。本当は飯塚さんみたいにみんなに必要とされたいって……思ってた。だけど、欲張っちゃいけないよな」

 奏汰はくるりと振り返って、ニッと笑った。

「冷静沈着でバカ丁寧にしゃべるお茶処の主人と、おいしいスイーツを作ってくれる柚香ちゃん。ふたりも俺を必要としてくれているんだよな。たとえそれがパシりとしてこき使うためだとしても」
「奏汰さん……」

 柚香が困った顔をしたのを見て、奏汰は柚香の髪をくしゃくしゃと撫でた。

「大丈夫。俺はもういじけたりしない。明日からは喜んでこき使われてやる。さあ、必要な買い物があったら、早くメモしてよ。じゃないと、帰っちゃうぞ」

 奏汰が冗談交じりの口調で明るく言った。

「え、あ、ちょっと待ってください」

 柚香はメモを取りに急いでカウンターに向かった。だが、慌てすぎたせいでペンを落としてしまった。床にしゃがんだ柚香の背中に奏汰が声をかける。