「奏汰さんっておいくつなんですか?」
「確か二十五歳だと聞きました」
「獅狛さんはおいくつですか?」

 柚香が見ると、獅狛の横顔が口元にふっと笑みを浮かべた。

「柚香さんはいくつだと思いますか?」

 逆に問われて、柚香は唇を尖らせる。

「えーっ、訊いたのは私なんですけど」

 獅狛が横目で柚香を見た。

「いくつに見えるか訊いてみたいのです」
「うーん……落ち着いているから三十代かな、と思ったんですけど……」
「実は……三百歳なのです」
「ええっ」

 獅狛が顔を上げて柚香を見た。獅狛は真顔だ。柚香は探るように言う。

「ええと……三十歳……ってことですか?」
「そのぐらいでしょうね」

 なんとも思わせぶりな言い方だ。

(年齢を教えたくないってこと? 男性は年齢なんて気にしないと思ってたのに)

「獅狛さんはとても落ち着いて見えますよね」
「それも褒め言葉と受け取っておきますね」

 獅狛は言って、味噌汁を汁椀によそった。今日の味噌汁は豆腐や根菜類がたっぷりと入っている。

「おいしそうです!」
「ありがとうございます。では、ご飯をよそってくれますか?」

 獅狛にコンロの横にガス炊飯器を示され、柚香は茶碗を取り上げた。炊飯器の蓋を開けると、温かな湯気とともに炊けたご飯の柔らかな匂いが立ち上上り、強く空腹を覚えた。

「あーっ、お腹空きました!」
「煮物もありますよ。たくさん食べてくださいね」
「はい、ありがとうございます」

 祖父母の家にひとりでこもっていたら、こんなふうに食欲など湧かなかったのではないだろうか。

 そんなことを思いながら、柚香は朝食をカウンターに運んだ。



 そうして滋養たっぷりの朝食をおいしくいただいたあと、柚香は洗濯機を借りて洗濯を済ませ、二階のベランダに干した。窓から狗守山を見ると、中腹に神社があるのが見える。あそこまでは長い石段を登らなければならない。

 そのうちお参りしようかな、などと思いながらスーツケースの中身を整理していると、車の大きなエンジン音が聞こえてきた。横の窓から首を伸ばして前庭を見たら、メタリックブルーの大型SUVが停車したところだった。エンジンを切って運転席から下りてきたのは、奏汰である。今日はウォッシュド加工のジーンズに黒いシャツ、同色のライダースデザインのジャケットという格好だ。

 彼は柚香を見つけて手を振った。

「柚香ちゃん、おっはよう!」
「おはようございます」
「頼まれてた買い物、済ませてきたよ」
「ありがとうございます」
「店で待ってるねー」

 奏汰が大きな買い物袋を持って店内に消えた。柚香はスーツケースを部屋の隅に移動させてから一階に下りる。暖簾をくぐってししこまに入ったら、奏汰はカウンターの真ん中の席でお茶を飲んでいた。