「全部……獅狛さんのおかげです」

 柚香は照れてうつむきがちになりながら言った。そんな柚香を見て奏汰が言葉を挟む。

「俺が最初におもしろいことを言ったんだよ。だから、俺にも感謝してくれないと」

 柚香がチラッと見たら、奏汰は不満げに唇を尖らせていた。柚香がクスッと笑い、奏汰は目を細くする。

「うん、柚香ちゃんは笑うとかわいいよ。いや、笑わなくてもかわいいんだけどさ、笑ってる方がずっといい」

 甘く見つめられて、柚香は困ってますます顔を赤くした。

「そんなかわいい柚香ちゃんに、ひとつお願いがあるんだけど」

 奏汰が空になった皿を持ち上げ、催促するように差し出したので、柚香はきっぱりと言う。

「さっき一切れっておっしゃいましたよね?」
「俺のせいじゃない。ケーキがうますぎるからだよ」
「奏汰さん……」

 柚香はどうしようかと獅狛を見た。

「奏汰さん、そろそろ節度というものを覚えましょう」

 獅狛に睨まれて、奏汰は首を縮込めた。けれど、獅狛が本気で怒っていないのはわかる。奏汰だって小さく舌を出しておどけた表情だ。そんな和やかな雰囲気に、また笑みを誘われる。

 ししこまは、とても温かな気持ちになれるお茶処だ。