獅狛は小さくため息をついた。

「柚香さん、甘いですね。彼はこうやって世の女性からお金や贈り物を手に入れてきたんですよ」
「えっ」

(もしかして奏汰さんって……ヒモだったの!?)

 柚香は目を見開いて奏汰を見た。奏汰はおどけたように目をくるりと回す。

「別に、俺から『欲しい』とか『買って』とかお願いしたわけじゃない。『いいな~』とか『俺に似合うだろうなぁ』って言ったら、みんなが勝手に貢いでくれるんだよ」

 悪びれた様子のない奏汰を見て、だからこそ神主である彼の父は、奏汰を獅狛に託したのだろうか、と柚香はふと思った。

「でも、柚香ちゃんが作ったケーキは、本当においしそうだから、食べてみたい。っていうか、食べたいな」

 奏汰に甘えるように上目で見つめられて、柚香はドギマギして視線を逸らした。

「あの、ええと、いろいろお世話になるお礼ということで……」

 柚香の返事を聞いて、奏汰は瞬時に目を輝かせる。

「やった! 俺、女の子から高級パティスリーのケーキとかチョコレートとかプレゼントされたことはあるけど、女の子が作ってくれたスイーツを食べるのは初めてなんだよなぁ」
「じゃあ、一切れでいいですね」

 柚香はパウンドケーキを一切れ皿にのせて、奏汰の前に置いた。

「もちろんもちろん」

 奏汰は嬉しそうにフォークを取り上げ、一口サイズに切って口に入れる。

「うん、うまいっ。やっぱり女の子の手作りは違うなぁ」

 獅狛は呆れの混じった口調で言う。

「奏汰さん、柚香さんは以前、人気洋菓子店でお菓子を作ってたんですよ」

 奏汰は瞬きをして柚香を見た。

「だからこんなにうまいのかぁ! 俺、毎日ししこまに来るよ。柚香ちゃんの作ったスイーツを食べられるなら、なんだって手伝っちゃうなぁ」
「私のスイーツだけでなんでも手伝うだなんて……」
「でしたら、うんとこき使ってやりましょう、柚香さん」

 獅狛が片方の口角を上げた。その意地悪にも見える表情に、柚香は笑みを誘われる。

「獅狛さんったら」

 柚香の表情を見て、獅狛が頬をほころばせた。

「柚香さんの笑顔が増えてきましたね。嬉しいです」

 その言葉に、柚香の心臓が小さく音を立て、頬が熱を持った。

 ずっと笑っていなかったのに、ここに来て何度か笑うことができた。そのことを改めて意識する。