「大丈夫ですよ。うちでお出ししている果物は、狗守山で採れる柿以外にも、農家の方がお裾分けしてくれるものばかりですから、原価はほとんどかかっていません」
「で、でも、それじゃあ生活が……」

　できないのではないか、と言いかけて、あ、と思った。獅狛の雰囲気から、彼は神職に携わっているのかもしれない。

「もしかして、獅狛さんは狗守神社の神主さまなんですか？」

　獅狛は少し考えて答える。

「いいえ、神主ではありませんが……狗守神社の関係者ではありますね。ですから、柚香さんのお給料もちゃんとお支払いできますから、ご安心ください」

　その言葉を聞いて、柚香は頬が熱くなった。お金の心配ばかりしていたようで、恥ずかしい。

「すみません」
「お気になさらず。さて、ほかにお客さまがいらっしゃる気配はありませんし、今のうちに家の中を案内しましょう」

　獅狛が右手で暖簾の方向を示した。

「あ、はい、お願いします」

　柚香は獅狛に続いて、暖簾の手前で靴を脱ぎ、廊下に上がった。年季の入った廊下を歩き、案内された一階には六畳の和室が二間あった。

「料理はししこまの厨房で行います。食事は、お客さまがいらっしゃらなければししこまで、いらっしゃれば厨房の隣の和室でとりましょう」
「はい」
「私は一階の奥の部屋を使いますので、柚香さんは二階の先ほどの部屋をお使いくださいね」

　部屋の配置から考えると、柚香に使わせてくれる部屋は、獅狛が使わない方の和室の上ということになる。彼の部屋の真上にならないように気を遣ってくれたのかもしれない。

「ありがとうございます」

　それから、獅狛は狗守山に通じているという裏口と、トイレと浴室に柚香を案内した。どちらもリノベーションされていて、柚香の実家のものよりも新しかった。

「一階はこれで全部です」

　そう言ってから、獅狛はなにかに気づいた様子で、店の方にさっと顔を向けた。

「おや、来たようですね」
「お客さまですか？」

　柚香の問いかけに、獅狛は首を左右に振った。

「いいえ。普段、買い物をお願いしているお手伝いの方です」

　そういえば、獅狛がそんな話をしていたことを思い出した。男性なのか女性なのか。仲良くなれるだろうか……。そんなことを考えながら、柚香は彼に続いて暖簾をくぐって店に戻った。すると、カウンター席にひとりの男性が座っていた。

「ちーっす」