「広翔さん、これはどういうことでしょう」

 柚香は出勤するなり、休憩室にいた恋人に自分のスマートフォンを向けた。全国製菓コンクールで優秀賞を獲ったケーキを取り上げたその記事を見て、望月(もちづき)広翔はソファに座ったままふわりと微笑む。

「ああ、さっそくニュースになってるな。俺と柚香の合作のケーキが優秀賞を獲ったんだ。柚香も嬉しいだろう?」

 広翔の他意のなさそうな笑顔に、柚香の胸がさらにモヤモヤとする。

「でも、これは合作ではなく……レシピを考えたのも、実際に製作したのも、私だったと思うんですけど……広翔さんの名前しか掲載されていないんです」

 広翔は目を丸くして、スマホを見る。

「それはおかしいな。俺がスーパーバイザーとして会場にいたから、俺の作品だと思われたのかもしれないな。柚香は無名だけど、俺の方が知名度は高いから」
「そんな……理由で……?」

 本当の考案者であり製作者でもある柚香の名前が掲載されなかったのか?

 そんな疑問を抱いた柚香に、広翔は隣に座るよう手で合図をした。柚香は釈然としないまま、彼の横に腰を下ろす。。

「柚香だって、恋人である俺が早くシェフパティシエになったほうがいいだろ? このコンクールでなんらかの賞が取れたら、それも早まる。恋人のためなんだから、こんなコンクールひとつくらいで、そうカリカリするなよ」
「でも……」

 柚香の中で、納得できない、という気持ちが急速に膨らんだ。そもそも『こんなコンクールひとつ』ではないのだ。柚香のレシピや作品を、広翔が彼名義で発表したことは、これが初めてではない。雑誌で取り上げられた“夏のフルーツケーキ”だって、雑誌では広翔が考案したものとして紹介されていたが、本当は柚香がアイデアを出し、実際に製作してショーケースに並べられたものだ。商品化の許可を出したのがスーパティシエである広翔なのだとしても、違和感は拭えなかった。

 これは不正ではないか? 盗用ではないか? 世間を騙しているのではないか……?

 そんな疑問が積もりに積もって、今日思い切って彼にぶつけたのだ。柚香の表情に不満を読み取り、広翔は小さくため息をついた。そして、胸元まである柚香のマロンブラウンのストレートヘアに指先を絡める。

「なあ。今の柚香があるのは誰のおかげだ?」

 広翔の口調ががらりと変わって、柚香は驚いて瞬きをした。

「製菓専門学校を出たばかりのひよっこのおまえを雇って、ここまで育ててやったのは誰だ? 言ってみろ」
「それは……」