「柚香さんを癒やしてさし上げたいと思ったのに、私が泣かせてしまいました」
「え?」

 チラッと視線を上げたら、獅狛と目が合った。彼は慈愛の眼差しで柚香を見つめている。

「獅狛さん……?」
「大丈夫です。柚香さんのことは私が守ります」
「でも……」
「私を信じてください」

 柚香は視線を落とした。柚香は彼のことをほとんどなにも知らないのだ。

 けれど、知っていると思っていた広翔のことさえ、なにもわかっていなかった。

「私があなたの居場所を作ります」

 獅狛が柚香の手を両手で優しく握った。彼の大きな手から伝わる温もりに、柚香の心が動き出す。

 まだ自分を必要としてくれる人がいる。

 その想いが、胸の中に小さな勇気となって灯った。

 柚香は心を決めて顔を上げる。

「わかりました。私でお役に立てるのなら、ぜひししこまで働かせてください」