ここで曲がるんじゃなかったかな――
人混みを避ける最短の迂回ルートとして、たまたま見つけた左手側の曲がり角だった。目指す方向に続いているだろうと見当をつけてとっさに曲がってみたのだが、入り込んだのは思ったより寂しげな路地だったのだ。おまけに五メートルほど先の緩い右カーブを過ぎると、幹線道路からの明るみも途絶えた。急に人いきれの消えた見知らぬ道で、眼前に現れた暗闇は歩を進めるのをためらう程には威圧感がある。一瞬、躊躇はした。けれど、引き返すだけの決定的な理由とまではならず、そのまま先を急ぐことにした。この界隈の地理にそれほど詳しいわけではないが、周辺の大きな通りの位置関係はわかっていて、むしろ前方五十メートル程先には小さくだが街灯が見えていたから。
でもすぐに後悔することになった。街灯が近付くにつれ徐々に、灯りのぼんやりした輪の中に照らされた、何か得体の知れないものの存在を認識せざるを得なくなったのだ。
僕はどうやらそこに見えてはいけないものを見てしまっているらしい。街灯の下には、真っ黒な人影が居るのだ。
数分前。
イベント会場でのバイトが終わり、祭りの縁日で賑わう公園に近付くと、ざわめきに乗って浮ついた空気も流れてくる。夏至が近い六月とはいえ、もうこの時間はすっかり日が落ちて夜である。僕は縁日に来たわけではなく、この公園の向こう側にある小さなギターショップに用があった。翌日のイベントに使うフォークギターの修理がギリギリ間に合った、と連絡が入ったので、急遽引き取りに行くことになったのである。もう閉店の時間は過ぎているが、「しばらくは店内で作業しているから」という気遣いをもらったので急いで向かっている途中だった。
駅前から続く四丁目通りを南下した突き当りの、T字路の向こう側が公園の入口になっていた。いつもは方向を変えずにT字路を渡って、そのまま真っすぐ公園の中を突っ切るのだが、今日は一目見てそれが困難なことがわかった。入口の周囲には既に人が溢れて渋滞している。予想はしていたが、通り抜けるどころか入り込むのも難しそうである。これは迂回するしかない。ギターショップは公園の反対側のやや右方向なので、T字路を右に折れてみることにした。ところが、道路は間もなく緩く右に折れていて、やや逆戻りする方向に向かっていた。青色看板のある次の大きな通りまでもまだ遠い。これは失敗かなと思い始めた時、公園の端を過ぎたあたりで脇道らしきものが目に入ったのである。行けそうだと感じた。これは渡りに船、と喜んだのだが。
人混みを避ける最短の迂回ルートとして、たまたま見つけた左手側の曲がり角だった。目指す方向に続いているだろうと見当をつけてとっさに曲がってみたのだが、入り込んだのは思ったより寂しげな路地だったのだ。おまけに五メートルほど先の緩い右カーブを過ぎると、幹線道路からの明るみも途絶えた。急に人いきれの消えた見知らぬ道で、眼前に現れた暗闇は歩を進めるのをためらう程には威圧感がある。一瞬、躊躇はした。けれど、引き返すだけの決定的な理由とまではならず、そのまま先を急ぐことにした。この界隈の地理にそれほど詳しいわけではないが、周辺の大きな通りの位置関係はわかっていて、むしろ前方五十メートル程先には小さくだが街灯が見えていたから。
でもすぐに後悔することになった。街灯が近付くにつれ徐々に、灯りのぼんやりした輪の中に照らされた、何か得体の知れないものの存在を認識せざるを得なくなったのだ。
僕はどうやらそこに見えてはいけないものを見てしまっているらしい。街灯の下には、真っ黒な人影が居るのだ。
数分前。
イベント会場でのバイトが終わり、祭りの縁日で賑わう公園に近付くと、ざわめきに乗って浮ついた空気も流れてくる。夏至が近い六月とはいえ、もうこの時間はすっかり日が落ちて夜である。僕は縁日に来たわけではなく、この公園の向こう側にある小さなギターショップに用があった。翌日のイベントに使うフォークギターの修理がギリギリ間に合った、と連絡が入ったので、急遽引き取りに行くことになったのである。もう閉店の時間は過ぎているが、「しばらくは店内で作業しているから」という気遣いをもらったので急いで向かっている途中だった。
駅前から続く四丁目通りを南下した突き当りの、T字路の向こう側が公園の入口になっていた。いつもは方向を変えずにT字路を渡って、そのまま真っすぐ公園の中を突っ切るのだが、今日は一目見てそれが困難なことがわかった。入口の周囲には既に人が溢れて渋滞している。予想はしていたが、通り抜けるどころか入り込むのも難しそうである。これは迂回するしかない。ギターショップは公園の反対側のやや右方向なので、T字路を右に折れてみることにした。ところが、道路は間もなく緩く右に折れていて、やや逆戻りする方向に向かっていた。青色看板のある次の大きな通りまでもまだ遠い。これは失敗かなと思い始めた時、公園の端を過ぎたあたりで脇道らしきものが目に入ったのである。行けそうだと感じた。これは渡りに船、と喜んだのだが。