後日、4月から異動になったドクターやスタッフの歓迎会と称した飲み会。
私たち研修医も部長命令で全員参加となった。
当然、飲み会の花形は赴任してきたイケメンな若手。
宮城先生は中心から外れたところで中堅看護師達と座っている。
私もなんとなく向かいの席に着いた。

さすがに医者の飲み会だけあって、料理もいくらか豪華な気がする。
ここぞとばかり、私は箸を動かしていた。

「お前は、つぎに行かなくて良いの?」
小さな声が聞こえた。
「ええ、嫌いなので」
「へぇ」と言いながら、何か言いたそう。

遠くの方で、良太がかいがいしく片付けやビールの追加を出している。
夏美と翼はお姉さん看護師達や、若手スタッフに囲まれている。
こうしてみると、品の悪い合コンにしか見えないわね。


歓迎会も、お開きの時間。

「じゃあね、また明日」
みんな気持ちよさそうに帰って行く。

何人かは2次会に行くみたいだけれど、私が誘われるわけもなく、ありがたく帰らせていただきましょう。

「オイ」
後ろから声がかかった。

「はい」
振り向くと、宮城先生。

「この間のお礼は?」
私の耳にしか聞こえない声。

ああ、そういえば。

「いいですよ。どこ行きますか?」
「ラーメンは?」
「入るんですか?」
「ああ」
って、私は無理だあー。
歓迎会で、食べ過ぎてお腹いっぱい。
それに、
「ごめんなさい。私、麺類苦手なんです」
あの、ズルズル吸う感じが好きになれない。
「ふーん、じゃあファミレスにするか?」
「はい」
ファミレスなら食べられるものがあるから、大歓迎です。


なぜか焼き豚丼を頼んだ宮城先生と、ケーキセットを注文した私。

「よく食べられますね」
「何で?」
「結構食べてましたよね?」
「悪いか?」
「いいえ」
何なのよ、この威圧感。
普段の温厚さはどこにおいてきた?

「先生、二重人格ですか?」
決して悪口のつもりで言ったわけではない。
でも、
「お前はわかりやすく裏表がないな」
ちょっと意地悪な顔。
「ええ。それをモットーに生きてます」
「医者になるくらいだから頭良いんだろうに、バカだな」
「はあ?」
「生き辛いだろう」
「まあ。そうですね」
損な性格だと、私も思っている。

だけど、なんだこの人。
こんなにも無遠慮に、ずけずけと私の中の入ってくる。

「何で、私には本性見せてくれるんですか?」
「何でだろうな」
「私が『宮城先生の本性はドsです』ってばらしたら困りませんか?」

ハハハ。
おかしそうに笑ってる。

「お前、そんなことしないだろう?」
すごい自信。
まあ、確かにしないけれど。
でもしないって信じるのは信用しすぎ。

「したらどうします?」
「バカ」
もー、今日何度目のバカ?。

「お前なんかより俺の方がずっと信頼がある。お前が騒いでも誰も信じないよ」
はー、確かに。
でも、この人もかなり屈折してる。


「ごちそうさま」
宮城先生と2人で、家の前。

家には明かりがついている。
きっと、翼が帰っているのね。

「実家な訳、ないよな」
探るような言葉。
「ええ、違います」
色々考えている宮城先生。

フフフ。
良い気分。
さっきまで宮城先生ペースだったのに、今は完全に私のペース。

「良かったら寄っていきますか?」
「嫌、でも・・・」
困ってる。

私は宮城先生を驚かせたくなった。
「コーヒーくらい入れます」

「うん、じゃあ」
やっぱり気にはなるらしい。