冬の終わり。
私は、父さんにも母さんにも祝福されて結婚した。

ささやかだけれど、温かな結婚式。
仲人は公の上司である内科部長。
小児科部長も上司として挨拶した。

「宮城くん、紅羽くん、結婚おめでとう。優秀な君たちのことだからきっと良い家庭を築いてくれることと、信じています。どうか、幸せになってください。僕は今日、新婦の上司としてここに呼んでいただきましたが・・・それだけではありません。実は、僕は生まれる前から紅羽くんのことを知っています。君のお父さんとは大学の同期であり友人でした。でも、新人の僕たちは友人を気遣うだけの余裕がなくて、助けてやれなかった。真面目で、嘘がつけなくて、いつも一生懸命だった君のお父さん。生まれてくる子供のためにと、それまで以上に働いていた。危険だなとみんな思っていても、助けてやれなかった。すまなかった」
深々と頭を下げる。

「君はお父さんそっくりだ。だから危なっかしくて、つい辛く当たってしまった。申し訳ない。どうかこれからは少し肩の力を抜いて、幸せになってください。ご両親の分まで」
声を詰まらせながらの挨拶に、みんな泣いた。

目の前の小児科部長のことは今でも好きにはなれない。
もっと誠実で、真面目で、人当たりのいい医者はたくさんいる。
でも、今日の言葉で、少しだけ見方が変わった。
私にとって父の死が運命だったように、部長や父の同期達にとっても悲劇だったんだ。
社会の現実を知り、医者として生き方を変えてしまう出来事だったんだと思う。
だから、もう部長を恨む気はない。
公に与えられる愛情が、憎しみや悲しみを浄化させてくれるように感じるから。
もうそれでいいと、心の底から思える。

私は今日、多くの人の祝福に包まれて幸せだった。