ご両親や今まで関わってきた病院スタッフにたっぷり抱っこしてもらった後、唯ちゃんは生まれて初めて病院を出た。

私は、さみしさがこみ上げた。

たった2年の短い命。
病院から出ることもできず、痛いこともいっぱいされて、頑張って生きた人生。
唯ちゃんの生きた時間って何だったんだろう。
自分が親になろうとしている今だからこそ、思いが募ってしまう。


「紅羽、帰るの?」
「うん。父さんが車で待っているの」
「ふーん」
夏美が何か言いたそうにしている。

辞令が出た後体調不良でずっと休んでいたから、きっと言いたいことも聞きたいこともあるはず。

「また、連絡するから」
「わかった、待ってる」

夏美は大学に入ってできた友達だけれど、友達が少ない私にとっては数少ない心許せる親友。

勤務が落ち着いたら赤ちゃんができた報告をしようと思っている。
どちらにしたって、もう数ヶ月すればみんなに知れることだから、その前に自分の口で言いたい。

「失礼します」
大きな声をかけ、慣れ親しんだNICUを見回した。

本当にお世話になりました。
私はここで医者にしてもらった。

ありがとうございました。
深々と頭を下げ、起き上がった瞬間、

んん?
マズイ。

下腹部に痛みが・・・
私はその場にしゃがみ込んだ。

お願い助けて。
痛みで気を失いそうになりながら、倒れ込んだ私。

駆け寄ってくる足音。

「紅羽」
動揺した、夏美の声。

「どうしたっ」
顔色を変えた小児科部長。

私はストレッチャーに乗せられた。