大学の時、担当の教授に『お前、子供は好きか』と聞かれ、
『いいえ』と答えた。
すると、『じゃあ小児科に行け』と言われ驚いた。
『意地悪ですか?』と返すと『違う。子供好きに小児科医は向かない。お前みたいな奴が小児科にはいいんだ』と。
なぜだろうと首をかしげると、
『小児科は子供が亡くなっていくところを見なくちゃいけない』
ああ、なるほど。
それを聞いて、私は小児科を希望した。

「紅羽」
「夏美。遅くなってごめん」
「さっき亡くなったわ」
「そう」
やっぱり間に合わなかったか。

NICUに入ると、小さなベットを何人もの大人が囲んでいた。

「山形先生」
唯ちゃんのお母さんが、駆けよって手を取った。

ゆっくり歩み寄り、見えてきたのはベットの上で眠っている唯ちゃん。
2歳の誕生日を迎えたはずなのに、とっても小さい。
いつもは何本もの管でつながれ機械の音がしているのに、今はすべて外されて安らかな顔。

「お世話になりました」
涙を流しお父さんがお礼を言っている。

看護師達の目がウルウルとしている。

でも、私は泣かない。
医者は命を預かるんだ。
『患者は医者を頼っているんだから、絶対に泣くな』
研修医時代にそう教えられた。だから、私は泣かない。