翌朝、病院のコンビニ。

「おはよう」
「おはようございます」
当たり障りのない朝の挨拶。

彼は、宮城公(みやぎこう)35歳の内科医。
優しい口調と温厚な性格で、患者さんにも人気がある。
10年以上にわたって僻地医療に携わり、地域医療に関しては県内の若手ホープと言われている人。
そして、私の彼でもある。

私たちの出会いは、2年前。
研修医のローテで内科を回ったときにお世話になったのが彼だった。
穏やかな目、体格は中肉中背。背は・・・180センチ。165の私とも良いバランス。

ん?
レジに並ぶ公が、私を見ている。

また、サンドウィッチとデザートなの?って目が言ってる。
だって、好き嫌いの激しい私が食べられる物ってこれくらい。

テへへ。
と笑ってみせると、
仕方ないなあ。と、肩を落とす公。

「あら、宮城先生」
ほら、また患者さん。

「田中さん。その後いかがですか?」
「はい、おかげさまで」
「季節の変わり目ですからね、気をつけてください。何かあれば受診してくださいね」
「はい、ありがとうございます」
患者さんは笑顔で立ち去った。

こんな調子だから、公には普段からお見合いの話がよくくる。
もちろん、断ってくれてはいるけれど・・・そのうち、断れないようなお見合い話がくるかもしれない。


元々かわいげがなくて、好かれるか嫌われるかのどちらかしかない私は、2年前の内科研修でも苦戦していた。
3ヶ月間の研修中、お局様のベテラン女医に捕まってしまった。
本当なら愛想笑いでもしてかわいらしくすればいいのに、それがでない私。
完全にロックオンされてしまい、意地悪をされた。
それでも、泣き言が言えない損な性格。

「カルテの整理と、診断書の作成を明日までに終わらせてね」
言い残して帰るお局様に、
「はい」
と答えてしまう。
1人でできるわけないのに。
分っているのに。


夜中の医局で、1人カルテ整理。
どうせやってもケチつけられる。
でもやるのが、意固地な私。

その時、
「何してるの?」って声をかけられた。

「診断書?何で1から作るの?」
私のデスクに並んだ書類を見ながら、呆れた顔をする宮城先生。
一方、意味のわからない私は
「1からじゃなくて、どうやって作るんですか?」
「医療秘書は?」
???
医療秘書って、ドクターのサポートをしてくれるスタッフ。

はー。
思い切り肩を落とした宮城先生。

「もう少しうまくやれよ」
全く優しくない言葉をかけてきた。

はあ?
私も顔に出てしまう。

大体、この人はいつも優しくて、患者にもスタッフにも人気の先生。
でも今は・・・別人みたい。

「半分よこせ」
「え、でも、先生当直なのに」
「1人でできるわけないだろうが」
「それはそうですが・・・」
先生だって、今夜当直で朝からまた勤務なのに。
「悪いと思うなら、手を動かせ」
「は、はい」

結局、宮城先生は仮眠も取らずに手伝ってくれた。


「オイ」
声がかかり、肩を揺すられた。

ヤバ、寝てしまった。

「すみません」
完全に意識が飛んでいた。
「帰って寝ろ」

時刻は、午前3時。

ええええ、全部終わってる。

「本当に、申し訳ありませんでした」
立ち上がり、腰を折った。

「ふーん、お前謝れるんだな」
はい?
一体私はどんな人間と思われているんだろう。

「もういいから今度おごれ。俺はちょっと寝る」
と、仮眠室へ向って行く。

その時、
ブブブ。

『はい、宮城です』
穏やかそうな声。

『はい、行きます』
あー、呼び出しだ。

なんだか、すごく申し訳ない事をしたな。