秋。

私も、小児科医として働くことに慣れた。
相変わらず部長には嫌われているけれど、上手にかわせるようにもなってきた。

「あれ、山形先生また痩せたんじゃありませんか?」
病棟師長の鋭い突っ込み。
「そんなこと・・・ないですよ」
って言っては見たものの、さすがによく見てる。

「体調管理万全にお願いしますね。もうすぐインフルの季節なんですから」
「あー、はい」

毎年、寒くなると小児科は目が回るほど忙しくなる。
インフルエンザの患者や、肺炎、ぜんそくの患者で病棟はいっぱいになってしまう。
そんなときに小児科医が体調不良なんて言ってられない。

「紅羽、本当に大丈夫なの?」
夏美が顔をのぞき込む。
「うん、大丈夫。ありがとう」
笑って見せたけれど、本当は・・・ちょっとまいっている。


実は、一昨日の夜公がうちにやって来た。
平日なのに珍しいなあと思っていると、
「辞表を出した」
何の前触れもなく告げられた。
それに対して、
「そう」
冷静に返事をする私。

今の生活が長く続くとは思っていなかった。
いつかは考えなくてはいけないと思っていた。
でも、こんなに早く・・・

「後任もすぐには見つからないだろうから、春までは嘱託医としてこれまで通り勤務することになると思う」
「そうなの」

平日は診療所で勤務して、週末はこっちに帰って来る。
当面の生活に変化はないってことね。
きっと、家に泊っていくんだろう。

「春からどうするの?」
思い切って聞いてみた。
「考えてる」
「そう」
それ以上は言えなかった。

公のこれからの人生に私の意見は入らないんですか?って言えたらいいのに。
かわいくない私には無理だな。

夜、私たちは同じベットの上で肌を合わせた。
お互いに寝付けないのは気づいていた。

「朝になったら帰るの?」
「いや、診療所は無理を言って休診にしてきたから、夜までに帰ればいい」
「そう」

寝返りを打って、私は公の背中を抱きしめた。
見た目よりも大きくて、たくましい。

「どうした?」
私の方を向いた公の目が、らしくないぞと言っている。

うん、分っている。
でも、今はこの温もりに包まれたい。

「私、今日仕事を休もうかなぁ?」
「そうだな」
え?
自分で言っておいて驚いた。
公がすんなりOKを出すなんて珍しい。

結局、私は病院に風邪だと嘘をついて休暇をとった。

私たちはお日様が高く昇ってもベットの中で過ごした。
何度もお互いを求め、愛し合った。

昼食が終わったら、公はまた戻っていく。
そして、私たちはまた会えない時間を過ごすんだ。
この温もりを手放したくないのに・・・
どちらからともなく唇を重ねた。

昼前になり、ベットから起き出しシャワーを浴びる公。
脱ぎ捨てられた服を見て気がついた。

着ている服にはすべて柔軟剤が使ってあるし、ワイシャツにだって綺麗にアイロンがかけてある。
それに、見たことのない下着。
公が1人で買ったとは思えない。って事は・・・
病院での噂通り、向こうに女の人がいるんだろうか?
いや、そんなはずは・・・
1人妄想を膨らませ、悶々とする私。
本当に、馬鹿だな。