その日は大きな急変もなく、夕方帰宅。
翼は帰っていなかった。
かわいそうに、明日から翼は注目の的。
当分は色々言われるんだろうな。
ただでさえ王子様キャラなのに、これで拍車がかかるのは間違いない。
気の毒。
夜遅くなっても、翼は帰ってこなかった。
心配で眠れない私は何度かメールを送ったけれど、返信はないまま。
12時を回り、さすがに不安になってきた頃。
ブブブ。
突然鳴った携帯。
ん?
知らない番号。
「もしもし」
電話は警察からだった。
「すみません、福井翼の・・・友人です」
私は交番に駆け込んだ。
部屋の奥でパイプ椅子に座っている翼。
顔には擦り傷があり、唇の端から血がにじんでいる。
「あの・・喧嘩をしたって、本当ですか?」
どうしても信じられなくて、対応に出た警官に確認してしまった。
「ええ、きっかけは些細なことのようです。すれ違いざまに肩がぶつかったとかぶつからなかったとかの。ただ、3対1の派手な乱闘だったようで、近くの店から通報がありました」
はあぁ。
「ご迷惑をおかけしました」
友人として引き取りに来た以上頭を下げるしかない。
「いえ、相手は逃げてしまっていますし、こちらとしても大事にする気はないんですが・・・怪我をしておられるんじゃないかと心配でして」
「はあ」
「ご本人が、『自分は医者だ。怪我はないから大丈夫だ』と救急車の要請を拒否されたものですから・・・」
なるほど。
それで私が呼ばれたのね。
「大丈夫です。彼は救命医ですし、私も医者です。何かあれば責任持って受診させますから」
「そうですか」
警官はホッとした様子。
その後、私は身元引受人の手続きをした。
初めて見る辛そうな翼。
「どうしたの?らしくないでしょ」
「分ってる」
その言い方が子供みたいで、
クスッ
笑ってしまった。
「飲みに行く?それとも、家で飲む?」
私はどちらでもいい。
こんな時くらい翼に付き合ってあげるわ。
「飲みに行こう」
「うん」
学生時代から通った行きつけのバーで飲んだ。
でも不思議なくらい酔えなくて、気がつけば外が明るくなっていた。
2人とも勤務がある以上一旦帰って仮眠くらいは取らないといけない。
「帰ろうか」
「そうね」
翼と肩を並べ、自宅の前まで来たとき、
「お帰り」
ドアの前に立つ公に、声をかけられた。
「どうして?」
思わず出た言葉に、
「今日は金曜日だぞ。こっちで勤務の日だ」
あーぁ、そうだった。
「電話してもつながらないし」
「ごめん。気づかなかった」
私と翼に近づいた公が、
「酷い顔だなあ」
翼の傷に触れようとする。
スッ、と手を避ける翼。
「らしくないな」
公の言葉に、
「分ってます」
反抗的な態度。
それ以上、公は何も言わなかった。
朝帰りを見られた以上、なんだか気まずい公との時間。
「電話に出られなくてごめん」
「いいよ。事情がありそうだからな」
一言では言えないけれど、翼が苦しんでいたから。
「お前も仕事だろ」
「うん」
完全に眠気は覚めてしまったけれど、まずは水を飲み、トイレで吐いた。
色気も何もない醜態。
でも、それをさらせるのも公の前でだけ。
「相変わらず色気がないなあ」
「仕方ないでしょ。アルコール臭いまま病院には行けないじゃない」
「それにしても・・・女をどこにおいてきた?」
「そんなもの、最初から備え付けられておりません」
相変わらずの軽口。
本当は、「病院を辞めるの?」って聞きたいのに。
肝心なことは聞けない私。
「俺は行くから、少しは仮眠をとれよ」
「うん」
「夜には帰るから」
「うん。行ってらっしゃい」
翼は帰っていなかった。
かわいそうに、明日から翼は注目の的。
当分は色々言われるんだろうな。
ただでさえ王子様キャラなのに、これで拍車がかかるのは間違いない。
気の毒。
夜遅くなっても、翼は帰ってこなかった。
心配で眠れない私は何度かメールを送ったけれど、返信はないまま。
12時を回り、さすがに不安になってきた頃。
ブブブ。
突然鳴った携帯。
ん?
知らない番号。
「もしもし」
電話は警察からだった。
「すみません、福井翼の・・・友人です」
私は交番に駆け込んだ。
部屋の奥でパイプ椅子に座っている翼。
顔には擦り傷があり、唇の端から血がにじんでいる。
「あの・・喧嘩をしたって、本当ですか?」
どうしても信じられなくて、対応に出た警官に確認してしまった。
「ええ、きっかけは些細なことのようです。すれ違いざまに肩がぶつかったとかぶつからなかったとかの。ただ、3対1の派手な乱闘だったようで、近くの店から通報がありました」
はあぁ。
「ご迷惑をおかけしました」
友人として引き取りに来た以上頭を下げるしかない。
「いえ、相手は逃げてしまっていますし、こちらとしても大事にする気はないんですが・・・怪我をしておられるんじゃないかと心配でして」
「はあ」
「ご本人が、『自分は医者だ。怪我はないから大丈夫だ』と救急車の要請を拒否されたものですから・・・」
なるほど。
それで私が呼ばれたのね。
「大丈夫です。彼は救命医ですし、私も医者です。何かあれば責任持って受診させますから」
「そうですか」
警官はホッとした様子。
その後、私は身元引受人の手続きをした。
初めて見る辛そうな翼。
「どうしたの?らしくないでしょ」
「分ってる」
その言い方が子供みたいで、
クスッ
笑ってしまった。
「飲みに行く?それとも、家で飲む?」
私はどちらでもいい。
こんな時くらい翼に付き合ってあげるわ。
「飲みに行こう」
「うん」
学生時代から通った行きつけのバーで飲んだ。
でも不思議なくらい酔えなくて、気がつけば外が明るくなっていた。
2人とも勤務がある以上一旦帰って仮眠くらいは取らないといけない。
「帰ろうか」
「そうね」
翼と肩を並べ、自宅の前まで来たとき、
「お帰り」
ドアの前に立つ公に、声をかけられた。
「どうして?」
思わず出た言葉に、
「今日は金曜日だぞ。こっちで勤務の日だ」
あーぁ、そうだった。
「電話してもつながらないし」
「ごめん。気づかなかった」
私と翼に近づいた公が、
「酷い顔だなあ」
翼の傷に触れようとする。
スッ、と手を避ける翼。
「らしくないな」
公の言葉に、
「分ってます」
反抗的な態度。
それ以上、公は何も言わなかった。
朝帰りを見られた以上、なんだか気まずい公との時間。
「電話に出られなくてごめん」
「いいよ。事情がありそうだからな」
一言では言えないけれど、翼が苦しんでいたから。
「お前も仕事だろ」
「うん」
完全に眠気は覚めてしまったけれど、まずは水を飲み、トイレで吐いた。
色気も何もない醜態。
でも、それをさらせるのも公の前でだけ。
「相変わらず色気がないなあ」
「仕方ないでしょ。アルコール臭いまま病院には行けないじゃない」
「それにしても・・・女をどこにおいてきた?」
「そんなもの、最初から備え付けられておりません」
相変わらずの軽口。
本当は、「病院を辞めるの?」って聞きたいのに。
肝心なことは聞けない私。
「俺は行くから、少しは仮眠をとれよ」
「うん」
「夜には帰るから」
「うん。行ってらっしゃい」