看護師がいなくなり、2人になった診察室。

「何で来た?」
不機嫌そうに、私を見ている。

「公のことが気になって」
「今更?」
「だって・・・」

「今日は休み?」
「違う。熱が出たってサボった」
「悪い奴だなあ。これ」
差し出された携帯。

映し出された翼からのメール。

『居酒屋で、2人酔いつぶれています』
顔を赤くして、とろんとした目の私。翼と頬を寄せながら写真に収まってる。

あー、だから公が電話してきたんだ。

「朝まで2人だったのか?」
「だから、あの日は飲み過ぎてしまって・・・」
「酔った勢いってことか?」
公の冷たい声。

どうしたのよ、今まではどんなことがあっても嫉妬なんてしなかったじゃない。
それに、
「私のことそんな女だと思っているの?」
私と公はもっと深い信頼関係みたいな物でつながっていると思っていた。

「そう思わせるのはお前の行動のせいだ」
「自分はどうなのよ。かわいい彼女がいるらしいじゃない。そのうちこっちで結婚するんじゃないかってもっぱらの噂よ」
「気になるか?」
「いいえ。公には公の事情があるんでしょ。知らなくて結構」
あーあ、またまた意固地な私が顔を出してしまった。

「お前・・・」
公の顔が強ばっていく。

はじめから、私たちの関係は秘密だった。
隠さないといけない事情があったわけではないけれど、どちらからとなく隠していた。
そのことに不満を感じたことはなかった。でも・・・

「先生、準備ができました」
検査室から看護師の声がした。

「公、お願い」
この期に及んで、白衣の端を持って目を潤ませてみたけれど、
「ダメ」
怖い顔をした公に睨まれた。

結局、胃カメラをさせられた。
ボロボロに泣いて、鼻水を流しみっともない私。
これって、公の意地悪よね。


「今のところ、胃の中は綺麗ですね。胃薬を出しますので飲んでください」
だから最初からそうしてって言っているのに。

その後も、他人のふりをして診察を続ける公。
私も最後まで患者で通した。

私にとっては最悪の一日になったけれど、その週末からまた公が家に来るようになった。
金曜に病院へ来て勤務して、泊っていく。
退職の噂も、現地に彼女がいるって噂も、気になりながら聞けないでいる私。
終わりの見えない曖昧な関係が続いている。