その日の夕方。

ピコン。
「飯行くか?」
翼からのメール。

色々言いながら、それでも気にかけてくれる。
本当にありがたい。
軟派なくせに良い奴なんだから。


「オー、紅羽」
病院の通用口で手を振る翼。

何、随分目立つことするじゃない。と思っていると、
チラチラと感じる周囲からの視線。

んん?
遠くの方で、ジーッと見ている女の子。

ああ、そういうことね。
結局また、翼の女の子避けに利用されてしまった。
仕方ない、今日はたくさん食べさせていただきましょう。



向かったのはいつもの大衆居酒屋。
炭水化物嫌いな私にとって、食べられるメニュ-の多い幸せな夕食。
その相手が気兼ねない翼なら文句なし。

さー、食べるぞ。
まずはビールで乾杯して、唐揚げ、サラダ、肉じゃがと、串揚げも。
結構高カロリーに頼んでしまいました。

「お前って、本当わかりやすいよな」
楽しそうな翼。
「何が?」
「食欲がストレスと比例してる」
はあ?

「イライラしてるときは高カロリーな物を欲しがるし、そうでないときは割とあっさりした物を注文する。誰が見てもわかるよ」
それは、えっと・・・単純だと言われているんですよね。

「悪かったわね」

良くも悪くも私の性格を知り尽くしいる翼に、今更何を隠すつもりもないけれど、この上から目線にはカチンとくる。
そりゃあ、翼は欠点のない完璧王子ですものね。

「で、お前はどうするの?」
「何よ、いきなり」
「3ヶ月の出張が終わったら、旦那に異動の辞令が出るぞ」
そりゃあ、そうよね。
それ前提での長期出張でしょうから。

「ついて行かないのか?」
「そんなの、行けるわけない」

翼だって分ってるはず。
私は今年やっと研修医が終わったばかりの半人前。
ついて行ったって邪魔になるだけ。

「別れる気か?」
「・・・しかたないじゃない」
このままいけば、いつかそんな結果を迎えるのは目に見えている。

「お前って、本当にめんどくせいな」
「は?」
「もう少し、器用に生きろ。適当に愛想笑いしてれば、もっと楽にいられるのに」
やめて、そのかわいそうだなって目。
「できないんだな。ごめんなさいね」
珍しい、今日の翼は絡み酒。

でもね、翼の言うことが正しいのはよくわかっている。
これからも社会人として生きていく上では身につけていかなくちゃいけないってことも。


翼の妙な説教のせいで、いつも以上に飲み過ぎてしまった。
久しぶりに、酔いつぶれた。

「ほら、笑え」
酔っ払った翼がなぜか私の写真を撮る。

「何してるの?」
「いいから。行くぞ」
結局、翼に抱えられて居酒屋を後にした。


日付が変わってたどり着いた自分の部屋のリビングソファー。
着替えもシャワーもせずに、いつの間にか眠っていた。