それから1ヶ月。
公も診療所が忙しいらしくて、メールも途絶えがち。
私も忙しさに追われていた。

そんなとき、ドクヘリの要請。
患者は子供。
受け入れのため私が飛んだ。

「お疲れ様です」
ヘリが降りると同時にやって来たのは、診療所の看護師。
その先に、ストレッチャーに乗せられた子供と公の姿。

「お疲れ様です」
随分久しぶりに、公を見た。
「ああ、お疲れ様。患者は6歳男児。鉄棒から落ちて、頭部と頸椎を打っている。今のところバイタルは安定。意識もある」
「わかりました。うちに搬送します」
「お願いします」

頭部を打ったとなると、脳外ね。
頸椎は整形。

「うぅーん」
患者の苦しそうな声。

6歳の子供が、鳴き声も上げずにいるって事は本当に苦しいんだと思う。
早く、病院に連れて帰らないと。

「じゃあ、これが紹介状と処方歴です。よろしくお願いします」
「はい」

久しぶりに間近で見る公。
ちょっと焼けてる?
往診のもあるって聞くから、外に出ることも多いのね。
ん?何、横の看護師。
やけに親しげ。

そういえば、翼が言っていたっけ、
「旦那、向こうで女と暮らしてるらしいぞ。うちのドクターが行ったとき見たって」
その時は、ふーんとしか思わなかった。
でも、案外本当だったりして。

・・・馬鹿。
何ヤキモチ焼いてるのよ私。

「山形先生、離陸します。お願いします」
「はい」
1人妄想に浸っていた私は、フライトナースの声で我に返った。



「あれ、脳外は?」
ドクヘリの中から連絡しておいたのに、病院で待っていたのは翼と整形の先生。

「今、オペ中。まずはこっちで見るから」
えーっ。

別に翼が不満なわけではないけれど、脳外に診て欲しかったのに。

「山形先生。入院は小児病棟でいいですか?」
救急外来の師長がベットの手配をしようとしている。

「そんなの、脳外が診察してみないとわからないじゃないですか」
「・・・」
ムッ、とした表情の師長。

だって、状態が落ち着いていれば小児科病棟入院でいいし、オペの対応になるようなら救急病棟へ入院。
今の状態ではわからないわよ。

「師長、とりあえず救急病とにベッドを用意してください。様子を見て、状態が安定するようなら明日にでも小児科病棟へ転棟しましょう」
翼の助け船。
「わかりました。山形先生、入院指示をお願いします」
師長に睨まれた。

「お前、もう少し愛想良くしろ」
カルテ入力をする私の耳元でささやく翼。

「分ってるわよ」
できるもんならやってるわ。
できないから、困っているんじゃない。

今だって、控え室で公の噂をしている今日のフライトナース。
「診療所の看護師といい感じでしたよ」
なんて、盛り上がっている声が私にだって聞こえてくる。

「もういいから、あがれ。後はこっちでやるから」
あれ、翼も不機嫌。

まあ、仕方ないわね。
私の態度が悪いのは確かだから。

「師長、脳外の診察を待って入院の指示を出しますから。もう一度脳外に催促してください」
パソコンの前に立つ私を押しやり、翼が担当医としてカルテ入力を始めてる。
私は仕方なく、病棟に戻ることにした。