それから、公は忙しくなり連絡も途絶えがちになった。
私も何も言わなかった。

「おはよう」
病棟センター顔を出した私に、夏美が寄ってきた。

「ああ、おはよう」
「今日、抜糸だよね」
「うん」
やっと。

たった10日間だったけれど、凄く不便だった。

「嫌がらせの犯人はまだ?」
「うん」

おそらく捕まらないまま終わる気がする。
実際、事件以降は無言電話もかかってこないし。

「このまま忘れ去られると思うわ」
私は別にそれでもいい。

「抜糸が終われば、お酒も解禁でしょ?近いうち、みんなで飲みましょう」
「そうね」
「最近、良太が凄くご機嫌なのよ。落ち着いたら飲みに行こうって、伝言」
「なんで?」
いいことでもあったんだろうか。

「来月から外来の担当日が増えるって喜んでいるのよ」
「へー」
「宮城先生が3ヶ月の長期出張で、その代わりだって」
「ふーん」

結局公は、まず3カ月間の出張として向こうへ行って、その後正式に辞令が出るらしい。
なんて、これもすべて翼から聞いた。
公は何も話してはくれない。

そして、今まで3日に一度は顔を出していた公が、家に来なくなった。
もちろん、色々と忙しいのは分っている。
そのことに文句を言うつもりはない。
毎晩、『今日も変わりなかったか?早く寝ろ』ってメールは変わらずやってくる。
それに対して、『今日も変わりなかったわ』としか返さない私がいる。


「本当に、お前達は面倒くさいなあ」
たまたま呼ばれた救急外来で、翼が話しかけてきた。

「仕方ないじゃない」
この性格は今更どうにもならない。

「話しはしたのか?」
「うん。昨日の夜」

さすがに平日の月から金で診療所に泊まり込むことになればなかなか会えなくなるからと、「しばらく会えない」と電話があった。
本当は、この先どうするつもりなのと聞きたいのに、結局聞けなかった。

「そんな顔していると、子供に泣かれるぞ」
「うるさい」
どうせ私は、子供に泣かれる小児科医です。

気にしていることをわざわざ言わないで欲しい。

「元々宮城先生をリクエストしたの向こうらしくて、大歓迎らしい。町長が見合い話を勧めようとしているって噂もある」
「ふーん」
だから、どうしろって言うのよ。

「お前もついていけば」
「はあぁ?仕事はどうするのよ」
「あっちで一緒に働けば」
「やめて」
そんなことできるわけがない。
第一、公が望まない。

「こら、痴話げんかか」
あ、救命部長。

「仲がいいのはいいことだが、きちんと仕事はしてくれよ」
言いながら、笑ってる。

「もー、部長」
「からかわないでください」
翼と声が重なってしまった。

救命部長も、翼の身近な人たちも、私と翼が付き合っていると思っている。
そう思わせているのは私たち。
でも、時々辛くなるときもある。